2012 Fiscal Year Research-status Report
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24791840
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高祖 秀登 東京大学, 医科学研究所, 特任助教 (50612876)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 網膜 / 視細胞 / 変性 / マウス / グリア / 再生 |
Research Abstract |
網膜は中枢神経系の一部であり、一度傷害を受けると再生しないと考えられてきた。近年、哺乳類網膜において傷害時にグリア細胞が脱分化し、神経細胞を生み出すことが分かって来た。しかし、網膜傷害時にグリア細胞の脱分化応答を引き起こすメカニズムはよく分かっていない。網膜傷害時のグリア細胞の応答を理解するために、成体網膜で杆体視細胞特異的に傷害を引き起こすマウスモデルは有用なツールとなる。薬剤の投与や光照射による網膜傷害のマウスモデルについては報告が多いが、遺伝子組換えマウスを用いて、成体で杆体視細胞特異的に変性を誘導した報告はない。RNA結合タンパク質、Msi1は成体で杆体視細胞に発現することが知られている。我々はこのMsi1遺伝子座に、誘導型Cre組換え酵素(CreERT2)をノックインしたマウスを作成した(Msi1-CreERT2)。Msi1-CreERT2マウスにタモキシフェンを投与することでCreERT2が核内に移行し、杆体視細胞特異的にCreによる組み替えを誘導することができる。Rosa26遺伝子座は、マウス全身で発現を引き起こす遺伝子座として知られており、この遺伝子座にLox-Stop-Loxカセットとジフテリア毒素(DTA)がノックインされたマウス(R26-LSL-DTA)は、Creの組み換えにより、Cre発現細胞特異的に細胞死を誘導するツールとして広く使われている。このR26-LSL-DTAマウスとMsi1-CreERT2マウスを掛け合わせて、タモキシフェンを投与することで、杆体視細胞の細胞死を誘導し、誘導型の網膜変性モデルマウスを作成する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Msi1-CreERT2マウスにより、網膜の杆体視細胞でCreによる組み替えが起きることを確認するために、Rosa26遺伝子座にLox-Stop-LoxカセットとGFPがノックインされたR26-LSL-GFPマウスと、Msi1-CreERT2マウスを掛け合わせた。このマウスに用量を変えてタモキシフェンを投与した(2mg、6mg、18mg)。投与量を増やすのに応じて、GFPを発現する杆体視細胞の割合が増加することが免疫組織染色とフローサイトメーターにより確認できた。このことから、Msi1-CreERT2マウスにおいてCreERT2が杆体視細胞に発現していることが示された。次に、杆体視細胞の変性を誘導するために、R26-LSL-DTAマウスをJackson Laboratoryから購入し、体外受精・胚移植により動物施設に搬入した。R26-LSL-DTAマウスとMsi1-CreERT2マウスを掛け合わせてタモキシフェンを投与したところ、投与後から少なくとも2ヶ月間は、マウスは顕著な異常を示さずに生存した。ジフテリア毒素(DTA)はタンパク合成を阻害するため、Cre組換え酵素の発現漏れは致死的な副作用を引き起こしうるが、Msi1-CreERT2マウスにおいて、生存に不可欠な臓器においてCre組換え酵素の発現漏れはないと考えられた。このマウスの網膜をタモキシフェン投与後1ヶ月に解析したところ、杆体視細胞が大部分を占める外顆粒層の縮小に加え、ミューラーグリア細胞においてGFAPの発現増強などリアクティブな所見が認められた。これらから、Msi1-CreERT2:R26-LSL-DTAマウスにおいて、タモキシフェンの投与により杆体視細胞の細胞死とグリア細胞の反応性変化を誘導できることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
作成したモデルマウス(Msi1-CreERT2:R26-LSL-DTA)を用いて、網膜変性時に起きる変化を組織学的、機能的、細胞生物学的、分子生物学的に解析する。Msi1-CreERT2; R26-LSL-DTAマウスにタモキシフェンを投与することで、杆体視細胞の減少とミューラーグリア細胞の反応性変化を認めたが、これらの変化がどのような時間経過で起きるのかを調べるために、タモキシフェン投与後に経時的に組織解析・免疫染色を行う。さらに、これらの組織学的な変化が機能的なレベルにおいても影響を及ぼすかを調べるために、網膜電図(ERG)を行って、暗順応下で杆体視細胞・双極細胞の応答、また明順応下で錐体視細胞・双極細胞の応答を解析する。次に、グリア細胞の反応性変化について細胞生物学的、および分子生物学的な解析を行う。タモキシフェン投与後にグリア細胞のリアクティブな変化が開始する時期を特定し、その時期の網膜細胞を解離して増殖因子存在下で培養し、ニューロスフィアを形成する幹細胞の存在の有無を調べる。また、グリア細胞がリアクティブになる時期の網膜からtotal RNAを抽出してマイクロアレイを行うことで、傷害を受けた杆体視細胞が発現する遺伝子や、グリア細胞が活性化する際に発現が増強する遺伝子を網羅的に同定する。これらのデータから傷害時に杆体視細胞がミューラーグリア細胞に送るシグナルの候補遺伝子を絞り込む。これらの候補遺伝子について、発現量の変化を定量的PCRで確認し、in situ hybridizationで発現の局在を調べる。そして、これらの分子が本当にグリア細胞の応答を引き起こすかを実証するために、マウスのin vivoエレクトロポレーションのシステムを用いて候補遺伝子の遺伝子導入を行い、組織学的にグリア細胞の応答を解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.マウスの実験に必要な費用(遺伝子組換えマウス系統の維持費、タモキシフェン投与に関連する試薬、ERGの測定に必要な試薬、エレクトロポレーション用のICRマウスの購入費)。 2.組織学的解析に必要な費用(組織の固定・切片の作成に必要な試薬、 抗体などの免疫染色に必要な試薬、in situ hybridizationに必要な試薬)。 3.細胞生物学的な解析に必要な費用(網膜細胞からニューロスフィア条件で幹細胞を培養するのに必要な増殖因子などの試薬、その他培養に必要なカルチャープレートなどの消耗品)。 4.分子生物学的な解析に必要な費用(Total RNA抽出・cDNA合成・Real-time PCRに必要な試薬、遺伝子のクローニング・コンストラクションに必要な試薬、マイクロアレイ解析に必要な試薬)。
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Research Products
(2 results)
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[Journal Article] Transposon mutagenesis identifies genes that transform neural stem cells into glioma-initiating cells.2012
Author(s)
Koso H, Takeda H, Yew CC, Ward JM, Nariai N, Ueno K, Nagasaki M, Watanabe S, Rust AG, Adams DJ, Copeland NG, Jenkins NA.
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Journal Title
Proc Natl Acad Sci USA
Volume: 109
Pages: E2998-3007
DOI
Peer Reviewed