2012 Fiscal Year Research-status Report
新しい調節性眼内レンズ開発を目的としたヒト水晶体3次元的力学シミュレーション解析
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24791872
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
川守田 拓志 北里大学, 医療衛生学部, 講師 (80511899)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 調節性眼内レンズ / 老視 / 水晶体 / 力学シミュレーション解析 / 光学シミュレーション解析 / 眼内レンズ |
Research Abstract |
本研究の目的は、力学、光学、医学の観点からアプローチを行い、老視矯正用調節性眼内レンズ開発に向けたヒト水晶体の調節メカニズムを解明することである。 力学解析結果より、水晶体は、核が存在することで効率的に形状が変化していることが分かった。したがって、調節性眼内レンズも効率よく変化させるために、生体適合性の高い材質を用いて2層あるいは多層のモデルが望ましいことが考えられる。また、加齢によりチン小帯からの緩む力(圧縮力)が、低下していることを踏まえれば、弱い圧縮力で効率的に変化する素材の組み合わせと形状を検討することも必要と思われる。具体的には、圧縮力が伝わりやすい比較的薄いレンズ、核に相当する部位は、非球面形状であり周辺よりもやわらかい素材(低ヤング率)が望ましいことがわかった。 光学設計ソフトを用いて、調節性眼内レンズに必要な眼球形状のモデリングデータと、波面収差係数や屈折度を自動で計算できるプログラムを作成した。具体的には、1. 入射瞳を指定し、2.波面収差の収差量が最小となるよう網膜面の面間隔を調整、3. 指定された眼球形状をモデリング、4. 波面収差をゼルニケ多項式にてフィッティング、5. ゼルニケ係数算出と、6. power vectorを用いて、屈折度(球面・円柱度数)を算出し、出力する。このプログラムを用いることで、調節性眼内レンズ設計後、どの程度老視を改善できたかを効率的に検証することが可能となる。 その他、調節に関する既報の調査や素材の選定資料を集め、調節性眼内レンズの力学、光学シミュレーションに必要なデータを調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、力学、光学、医学の観点からアプローチを行い、老視矯正用調節性眼内レンズ開発に向けたヒト水晶体の調節メカニズムを解明することである。具体的には、1. 力学解析から水晶体の前後面曲率変化に影響を与える因子の解明、2. 光学解析から水晶体前後面曲率変化や水晶体核が眼球光学特性に与える影響の調査、3. 調節性眼内レンズへの適用検討を行う、であり、現在上記2までを終えている。 おおむね順調に進展している理由としては、水晶体は、核が存在することで、力学的にも光学的にも機能的役割があるとする過去の報告(清水, 第65回日本臨床眼科学会;魚里, 光学, 2002)や物性および形状データを含む既報(Navarro, J Opt Soc Am, 1997; Dubbelman, Vis Res 2001; Koretz, J Opt Soc Am 2001; Hermans, J Vis 2007, Optom Vis Sci 2008)を参考にできたこと、光学設計ソフト、3Dモデリングソフトウェアを年間リースできたこと、またサイバネットシステム社の光学に造詣が深い専門家に協力を仰ぎ、研究が効率的に進んだことが挙げられる。 しかし調査を行う中で、次年度に行う3. 調節性眼内レンズへの適用検討に関しては、形状、材質、またそれにかかる力の設定は、自由度が非常に大きく、困難が予想される。既報や現存するデータベースだけでなく、最近開発された液体レンズや膜に関する新素材の情報、あるいは本結果の条件に合う新素材の開発まで視野に入れた幅広い情報を含めて検討予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究成果である1. 力学解析から水晶体の前後面曲率変化に関する結果と、2. 光学解析から水晶体前後面曲率変化が眼球光学特性に与える影響の調査結果と、生体適合性の高い材質データを用いて、最適な調節性眼内レンズ形状を模索する。 具体的には、既報より生体適合性の高い2種類あるいはそれ以上の種類の材質を選定する。選定の仕方としては、生体と同様、屈折率が高く、弾性が高い素材を中心に設定し、過去の報告からチン小帯からの緩み力(圧縮方向)0.02 N(全周では4倍の0.07 N)の荷重をチン小帯が入り込んでいる領域(R 2.75mm以上)に直接作用させる。作用方向は、前面21°、後面38°(E.A. Hermans,J Vis, 2007)の予定である。この荷重値は、近見調節時の中心部の厚と合うように設定する。また、断面上は、対称条件を設定し、360度の回転体モデルとする。 その後、変形した形状データを光学設計ソフトにインポートし、平成24年度に作成した波面収差および屈折度を計算できるプログラムを用いて、光学解析を行い、空間周波数特性および波面収差、屈折度を計算し、老視が改善していることを確認する。もし老視克服に十分ではない変化量であれば、形状および材質を再選定し、再解析を行い、これを繰り返し、最適化を行う。また、必要であれば、老視改善の目安である3.0 Dに必要な物性および材質の組み合わせを連携解析ソフトによって、導くことも検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、主に1.調節性眼内レンズ設計の受託解析依頼、2.光学設計ソフト等の年間リース料およびソフトトレーニング費用、3.成果発表にともなう旅費、で使用予定である。 1.調節性眼内レンズ設計の受託解析依頼に関して、力学シミュレーションソフトウェアおよび力学と光学の連携解析ソフトウェアは、非常に高価であり、受託解析の方がはるかにコストを抑えられるために依頼する。 2.光学設計ソフト等の年間リース料については、本研究に必要なすべてのケースを受託解析で依頼すると、膨大なコストになるため、光学領域は、おおまかなプログラムのみを依頼し、条件設定の変更と解析は、自分で行えるよう年間リース料を計画に入れている。トレーニング料に関しては、使用する光学設計ソフトは、汎用市販ソフトとは異なり、参考書が存在せず、学習効率が悪く、作成に時間がかかる点、また専門的な知識に基づき正確に実行しなければ、誤った結果を導くことになり、研究結果の妥当性に疑問が生じかねないため、結果や解析方法に第3者の意見も取り入れたいとの理由で使用予定である。
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