2012 Fiscal Year Research-status Report
未成熟分泌顆粒の酸性pH維持に伴う陰イオン流入はアクアポリン6が行うか?
Project/Area Number |
24791986
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
福島 美和子 日本大学, 歯学部, 助教 (90548273)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 唾液腺 / 口腔生理学 |
Research Abstract |
耳下腺の分泌顆粒は未成熟な時期があり、内部は酸性に維持されている。申請者は酸感受性・陰イオン透過性のアクアポリン6(AQP6)が耳下腺分泌顆粒膜上に存在することを発見し、酸存在下で陰イオン流入を行うと考えた。そこで、遺伝子サイレンシングによりAQP6の発現を抑制し、AQP6が未成熟分泌顆粒の酸性化に伴う陰イオン流入経路であることを証明する予定である。 遺伝子サイレンシングのためには、AQP6遺伝子に対するshRNAを行う。さらに分泌顆粒マーカーを共に導入し、イメージングで形態的変化を検出することで、shRNAの効果を判定する予定である。本年度は、shRNAと分泌顆粒マーカーのHalo Tagを耳下腺組織に直接導入する手法を決定する予定だった。しかしながら、共同研究者の開発した手法に従って導入を試みたものの、どのウイルス濃度・日数条件においてもベクターは発現しなかった。このことから、ウイルスの導入効率を向上させることは、現段階で困難だと考えられた。 そこで、次年度に予定していた計画を前倒しすることにした。次年度では、Halo Tag発現細胞にpHインジケーターを導入し、蛍光イメージングにより内部pHの差を用いて未成熟分泌顆粒を同定する予定であった。蛍光pHインジケーターの候補はアクリジンオレンジ(AO)だったが、耳下腺腺房細胞に使用したところ、AOの顆粒内部安定性が悪く、我々が希望するような長時間のイメージングには応用できなかった。そこで、蛍光インジケーターの安定化を目的とし、初代培養細胞中の分泌顆粒に特異的なpHインジケーターの新規合成を行った。結果、初代培養細胞中に発現させた分泌顆粒特異的Halo Tagと結合する蛍光pH インジケーターを開発することに成功した。 耳下腺組織へのウイルス導入方法は、共同研究者の開発した新規手法を次年度に検討することで改善が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アデノウィルスベクターをラット耳下腺に導入するシステムを構築する予定であったが、予想以上にウイルスの定着率が悪かった。従って、既知の手法ではウイルスベクターの導入が出来ないと判断した。したがって、ウイルスベクター導入の成功を前提とした実験は今年度に達成できなかった。一方で、共同研究者や他分野研究者との情報交換で、新しい導入方法を知ることに成功した。次年度に新規導入方法を改良しながら検討する予定である。 また、前倒しして行った蛍光pHインジケーターの条件検討では、結果的に新規蛍光pHインジケーターの開発に成功した。最初の候補であったアクリジンオレンジが分泌顆粒内に捕捉されず、予定していた使用方法が見込めないという問題が出たが、分泌顆粒に当初から発現させる予定だったHalo Tagタンパク質に特異的かつ共有結合的に結合するリガンドを利用することで回避することに成功した。新しく候補に挙げたSNARF-1は、1波長励起2波長蛍光を出すことのできる蛍光pHインジケーターであり、アクリジンオレンジと同じようなイメージングに使用できる。このSNARF-1とHalo Tagリガンドを合成し、新規インジケーターのSNARF-O2を得た。SNARF-O2は、分泌顆粒特異的Halo Tagレポータータンパク質を発現した耳下腺初代培養細胞内において、分泌顆粒に特異的な局在を示し、かつ蛍光を観察することが出来た。したがって、分泌顆粒に特異的で安定した蛍光pHインジケーターを開発することに成功した。SNARF-O2使用にあたり解決すべき課題は、SNARF-O2と異なる波長域のHalo Tagリガンドが必要なことであるが、短波長励起リガンドを利用することで解決が見込める。このように、結果として次年度に解決すべき問題を解決できた点、次年度で解決が見込めるにおいて、おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
ラットの耳下腺に直接ウイルスベクターを導入する手法に改善が必要である。eGFPコントロールベクターを用いて2種類の方法を試行する。 1.耳下腺導管開口部から逆行性注入法を用いてウイルスベクターを感染させる。導管からの逆行性注入法は、顎下腺での成功例が報告されている(Morita, 2011)。顎下腺と異なり、耳下腺は導管開口部が狭窄しているため、注入方法を改良する必要はあるものの、成功すれば穏やかにウイルスベクターの感染を成立させられることが有利である。 2.ウイルスベクターの精製条件を変える。現在は、精製・濃縮したウイルスを一度-80度でフリーズストックものを、解凍して用いている。共同研究で、精製・濃縮したウイルスを凍結せず、直ちに使用することで導入効率が改善したとの報告があった(Narita,未発表データ)。そこで、精製・濃縮したウイルスを直ちにラット耳下腺に感染させることで、導入効率の改善を期待する。 これら2つの方法を試行し、eGFPの発現が改善された場合は、AQP6のshRNAと分泌顆粒特異的Halo Tagの2つのベクターを耳下腺組織に導入し、発現量を検討する。shRNAについては、AQP6のmRNAおよびタンパク質量を測定し、十分な発現量の減少が起こるかを確認する。同時に、shRNAが分泌顆粒以外に与える影響は、形態と唾液量の変化で確認する。Halo Tagについても、発現量と副作用の2つを考慮する。発現量はHalo Tagタンパク質量により確認する。副作用はshRNAと同様、形態と唾液量の変化で確認する。 これらの条件検討をクリアすることによって、次年度~最終年度には、SNARF-O2とHalo Tagタンパク質を用いた未成熟分泌顆粒の同定、およびAQP6遺伝子のshRNAが未成熟分泌顆粒に与える影響を検討できると考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は消耗品購入費および研究成果発表にかかる費用が必要となる。 1.ラットの耳下腺に直接ウイルスベクターを導入する手法を改善するため、eGFP陽性コントロールベクターを用いた動物実験を行う(以下1.とする)。これにあたり、ウイルスベクターの増幅と精製を実験ごとに行う必要がある。したがって、ウイルス調製のための細胞培養にひつような器具と試薬、ウイルスの精製器具、動物の購入と飼育に最低限5回分の費用が必要となる。 2.1の段階が成功した場合は、AQP6遺伝子のshRNA、Halo Tagの2種類のウイルスベクターを作製・精製し、ラットの耳下腺に同時に導入する(以下2.とする)。2種類のベクターを同時に導入する効率の検討に、1と同様の費用が最低限5回分必要である。次に、2つのベクターを導入後のshRNAおよびHalo Tag発現量の評価として、蛍光リガンドや抗体などの試薬購入費、組織化学の試薬・器具購入費、各種生化学実験用の試薬・器具購入費が最低限5回分必要である。 仮に1のステップにおいても改善が見込めない場合は、予定されていた別の検討方法を進行させる。耳下腺初代培養細胞を用いて2つのベクターを同時に導入し、効果を判定する。その場合においても、2.と同様の費用が必要となる。 次年度の研究成果は学会発表すると共に、学術雑誌への投稿を目指す。したがって、学会発表(歯科基礎医学会学術大会、岡山)の渡航費およびポスター印刷代、学術雑誌(英文誌、未定)への投稿費用が必要である。
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Research Products
(2 results)