2013 Fiscal Year Research-status Report
機能性を付与した支台築造用コンポジットレジンの開発
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24792156
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
内田 僚一郎 日本大学, 松戸歯学部, 助教 (10623960)
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Keywords | フッ素徐放性モノマー / 抗菌性 / 歯質強化 |
Research Abstract |
本研究ではフッ素徐放性、歯質接着性の機能を付与したコンポジットレジンの開発を目的としている。昨年度はフッ素徐放性コンポジットレジンを試作し、フッ素徐放性モノマーの添加量が機械的強さやフッ素徐放量に及ぼす影響を検討した。本年度はフッ素イオンの抗菌機能に着目し、フッ素イオン濃度の異なるBrain Heart Infusion(BHI)溶液中でう蝕原生菌を培養し、その抗菌性について検討した。 菌体にはStreptococcus mutans JC2(S. mutans)およびStreptococcus sobrinus SL1(S. sobrinus)を用い、BHI培養液にて37℃、18時間培養後、菌数を調整して使用した。NaFを用いてフッ素イオン濃度(11, 23, 45, 90, 181, 362, 724, 1448 ppm)の異なる8種のBHI液体培地を調整し、この溶液中に菌体を播種し、37℃にて18時間インキュベーションした後、培地の濁度を分光光度計にて測定して菌増殖に伴う濁度の変化からMIC(最小発育阻止濃度)を決定した。また、殺菌性については菌体を含む各種フッ素イオンの濃度のBHI溶液をMitis Salivarius寒天培地にて播種後37℃、48時間培養し、菌集落を測定することで決定した。 その結果、S. mutans, S. sobrinusのフッ素イオン濃度のMICはともに362 ppmであり、殺菌性を示すには362 ppm以上必要となることが明らかになった。試作したフッ素徐放性コンポジットレジンのフッ素徐放量は1日0.1~0.9 ppmであり、362 ppmのフッ素イオンを溶出するのは現実的に不可能であるため、今後はフッ素の機能のうち0.05~1 ppmのフッ素濃度で期待される歯質強化作用に着目しながら今後の研究を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
フッ素徐放性および歯質接着性機能を付与した支台築造用コンポジットレジンを作製するため昨年度はフッ素徐放性モノマーを添加したコンポジットレジンを試作し、その機械的強さおよびフッ素徐放量について検討した。その結果、フッ素徐放性モノマーの添加量が増加すると1日間に0.9 ppmのフッ素イオンを徐放するが機械的強さが低下することが明らかになった。 本年度はコンポジットレジンに抗菌性を付与するために必要な最低フッ素イオン徐放量を知るため、NaF溶液を用い抗菌性試験を行った。その結果、う蝕原性菌に対して静菌的な抗菌性を示すには362 ppm、殺菌性を示すにはそれ以上のフッ素イオン徐放量が必要であることが判明した。この結果から試作コンポジットレジンのベースモノマーに抗菌機能を付与するためにフッ素徐放性モノマーを添加する量をさらに増大させてもフッ素イオン徐放量は362 ppmに達しないと考えられた。 そこでフッ素の歯質強化作用としてフッ素イオンを長期的に0.05~0.1 ppm歯面に作用させると歯質の耐酸性を向上し、再石灰化を促進することに注目した。フッ素イオンは濃度により歯質に及ぼす影響が異なり、2 ppmのフッ素イオンを長期的に歯面に作用させると斑状歯が生じて歯質を弱体化することが報告されている。 本実験で使用するフッ素徐放性モノマーを安全に使用するには、事前にフッ素イオンの濃度による歯面への影響を評価する必要がある。そこで実験計画を変更し、フッ素徐放性機能を付与したコンポジットレジンの開発の前段階研究を今後行う。検討課題としてフッ素徐放性モノマーの材料応用を視野に入れ、フッ素のイオン濃度が歯面に及ぼす影響を評価していく。 実験計画に変更が生じたため達成度にやや遅れはあるが、昨年度の実験データを有効活用すれば円滑な研究遂行が可能なので、遅れを取り戻せるよう努力していく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は研究計画を変更し、本実験で用いたフッ素徐放性モノマーの安全な材料応用を検討するため、フッ素イオンの濃度が歯質強化におよぼす影響を検討していく予定である。 方法としてフッ素イオン濃度の異なる溶液にエナメル質ブロック試料を浸漬し、歯面上での経時的な形態学的変化およびフルオロアパタイトの形成などの化学変化を観察する。浸漬するフッ素溶液のフッ素イオン濃度は、市販のグラスアイオノマーセメントの1日間のフッ素イオン徐放量の測定値である10 ppmを最大値とし、さらに本実験で使用したフッ素徐放性モノマーの1日間のフッ素イオン最小徐放量0.05 ppmを最小値とし、各フッ素イオン濃度における歯面への影響を評価する。また、フッ素徐放性材料の安全性も検討するために斑状歯を生じるフッ素イオン濃度についても合わせて検討する。評価方法は、歯面の形態学的観察には走査型電子顕微鏡(SEM)、歯面の化学構造解析にはX線光電子分光法(ESCA)の使用を計画しており、必要なら再石灰化の評価にはマイクロCTを用いたカルシウム濃度の計測も予定している。この結果をもとに本実験で使用したフッ素徐放性モノマーの歯質強化機能材料への応用を検討する。 以上のことをまとめると今後の実験計画を変更し、フッ素徐放性モノマーの最適な材料応用を検討するためにフッ素イオンの濃度が歯質におよぼす影響について形態観察、構造解析を行い研究計画を推進していく次第である。
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