2012 Fiscal Year Research-status Report
水素処理による微細粒チタン合金の超塑性加工法による歯科補綴物の試作と評価
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24792163
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Research Institution | Fukuyama University |
Principal Investigator |
中東 潤 福山大学, 工学部, 講師 (40341200)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | チタン合金 / 水素 / 超塑性 / 歯科補綴物 |
Research Abstract |
本年度は、従来の研究で行ったことがない大型の供試材(α+β型Ti-6Al-4V合金、サイズ:25×40×50mm)に水素処理(水素吸蔵-溶体化・マルテンサイト化-熱間圧延-脱水素)を適用させて微細組織化した後、この材料の超塑性特性を調べた。そして超塑性加工による歯科補綴物の試作を行った。 まず、大型供試材への水素処理の適用のために最適水素吸蔵量を求めた。水素吸蔵量の異なる2種類の試料(0.5wt.%、0.4wt.%)を準備し、これらに溶体化・マルテンサイト化、熱間圧延、脱水素処理を行った。また、熱間圧延は従来の一方向圧延では超塑性加工の後、リジングの発生が懸念されるので、本実験では一方向及びクロス圧延の2通りを実施したものを準備した。そして超塑性伸びに及ぼす水素吸蔵量及び圧延方式 (一方向、クロス)の影響を調べた結果、水素吸蔵量を従来の最適量である0.5wt.%から0.4%へと低下させたクロス圧延材の超塑性伸びは、一方向圧延材とほぼ同等の値を示した。次に一方向圧延材及びクロス圧延材の変形応力に及ぼす初期ひずみ速度の影響を調べた結果、水素吸蔵量0.4wt.%のクロス圧延材は一方向圧延材と比較して同等、もしくはやや低い良好な値を示し、水素吸蔵量を下げることによって超塑性特性の向上が見受けられた。このことより、大型の供試材への水素処理の適用が可能であり、さらにこの材料は歯科補綴物作製のための充分な超塑性特性を有していることがわかった。 超塑性加工によるメタルフレームの試作を、加工温度:1123K、圧力:1.5MPa、保持時間:10.8ksにて、水素吸蔵量0.4wt.%のクロス圧延材を用いて行った結果、頭頂部を含めた大まかな輪郭を形成させることができた。今後、さらなる最適な加工条件の探索によって精度の高い歯科補綴物が可能であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究目的は(1)大型供試材への水素処理の適用(2)水素処理材の超塑性特性の把握 (3)超塑性加工法による歯科補綴物(メタルフレーム)の試作であった。 (1)と(2)については、水素吸蔵量を従来の最適吸蔵量であった0.5wt.%から0.4wt.%に低下させることで、超塑性特性の改善が見受けられるなど、大型供試材への水素処理の適用条件は把握できたと考えている。また、従来、水素処理の第3工程の熱間圧延は一方向圧延だったが、これをクロス圧延に変更しても超塑性特性はほぼ同等であるなど、大型水素処理材の超塑性の基本特性は把握できたと考えている。(3)については、超塑性加工によってメタルフレームの輪郭が形成されるなど、製造工程の確立の可能性を示すことは出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
大型供試材への水素処理の適用及び水素処理によって得られた材料の超塑性特性の把握は完了したので、今後は最適超塑性加工条件の把握を行っていく。超塑性加工の条件である加工用薄板の厚さ、加工温度、加工圧力、保持時間が超塑性加工の可否を決めるパラメータなので、加工後の試作品を観察しながら最適条件を探索していく。その後、超塑性加工による試作品(メタルフレーム)の成形型との適合性の他、機械的性質、金属組織の変化、不純物の進入状態を把握する。適合性については、成形型と試作品を密着させ、その隙間を光学顕微鏡で調べる予定にしている。機械的性質については、マイクロビッカース硬度計を使用して加工前後の強度変化を調べ、金属組織の変化については、光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察し、結晶粒径やボイドの存在状況を把握する。不純物の侵入状態については電子線マイクロアナライザーで酸素などの分布状況を調べる予定にしている。以上の調査によって従来の方法(鋳造法)で作製したクラウンおよびメタルフレームと比較し、超塑性加工によるクラウンおよびメタルフレームの優位性を明確にしていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に使用する予定の研究費が発生したのは、超塑性加工による歯科補綴物の試作が僅かな回数しかできなかったことにある。本年度は超塑性加工法の最適条件の把握を行うために数多くの試作を行う予定であり、そのためには多くのアルゴンガス及び水素ガスと供試材(チタン合金)が必要となってくる。また、超塑性加工の最適条件が把握した後は、この試作品の優位性を示すために、金属組織観察や機械試験等を行っていくが、金属組織観察用試料作製のための研磨腐食設備や透過型電子顕微鏡といった装置は所有していないので、外部に依頼する必要がある。
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