2012 Fiscal Year Research-status Report
転写因子Foxo1の血管形成の制御機構における役割の解明
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24792237
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
田村 潔美 熊本大学, 学内共同利用施設等, 助教 (90399973)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 血管 / 転写因子 / 胚性幹細胞 |
Research Abstract |
血管形成は、血管内皮細胞と壁細胞によって、多くの細胞生物学的プロセスが協調的に作用することで進行する。しかし、このプロセスを調節する分子機構の詳細は明らかではない。私は、複雑な血管形成の過程を試験管内培養系で観察でき、また分子生物学的解析が可能なマウス幹細胞(ES)細胞の血管細胞分化誘導系を用いて、血管形成のメカニズムの解析を行っており、現在、フォークヘッド型転写因子Foxo1が【血管内皮細胞の伸長:血管新生(発芽)】と【血管内皮細胞と壁細胞の結合:血管成熟】という2つの血管形成プロセスの調節に関与することを報告している。 Foxo1はエネルギー代謝や酸化ストレス応答等の様々な細胞機能の調節に働くことが知られているが、血管形成や細胞形態の調節への関与については不明であった。しかし、最近、Foxo1の欠損マウスが血管形成不全により胎生致死となることから、Foxo1は血管形成の必須因子であることが示唆された。そこで私は、血管内皮細胞でのFoxo1の欠損が伸張機能の消失を引き起こすことに着目し、野生型とFoxo1欠損ES細胞由来の血管内皮細胞の遺伝子発現解析によって、血管内皮細胞の形態制御に関与するFoxo1の標的因子の同定を試みた。その結果、タンパク質ホスファターゼ1結合タンパク質のあるサブタイプが候補因子として同定された。 この候補因子はタンパク質ホスファターゼ1を阻害する。そこで、この阻害剤であるオカダ酸でFoxo1欠損血管内皮細胞を刺激したとこる、伸張機能が回復した。さらに、Foxo1欠損血管内皮細胞の伸張機能は、この候補因子の遺伝子導入によって回復することが明らかになった。これらの結果は、Foxo1が候補因子の調節を介して血管内皮細胞の形態制御に働く可能性を初めて示唆するものであり、本研究によって新たな血管形成メカニズムを明らかに出来ると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ES細胞を用いた血管形成におけるFoxo1の分子機構の解析を目的とし、特に、【血管内皮細胞の伸長:血管新生(発芽)】でのFoxo1の分子メカニズムの解明研究を行った。 ■ 遺伝子発現解析によるキーファクター(候補因子)の同定:Foxo1欠損血管内皮細胞では、タンパク質ホスファターゼ1結合タンパク質のあるサブタイプ(候補因子)の発現が減少していることをreal time PCR解析によって明らかにした。また、Foxo1欠損血管内皮細胞にこの候補因子を遺伝子導入したところ、伸長機能の回復が見られた。さらに、このようなFoxo1欠損血管内皮細胞の伸張機能の回復は、タンパク質ホスファターゼ1阻害剤の投与によっても見られた。この候補因子の遺伝子領域にはFoxo1結合部位があることが予測されており、現在、レポーターアッセイによるFoxo1による直接的な転写調節の可能性を解析中である。 ■ 細胞骨格調節機構の解析:試験管内血管形成モデルを用いて、免疫染色と共焦点顕微鏡による観察によって、ミオシン軽鎖等の細胞骨格制御因子の発現と分布の野生型とFoxo1欠損血管内皮細胞での違いを検討している。 ■ 【血管内皮細胞と壁細胞の結合:血管成熟】でのFoxo1の分子メカニズムの解明:血管成熟は、血管内皮細胞が壁細胞によって取り囲まれることで完成するがFoxo1を欠損した場合、血管成熟は見られない。血管成熟過程の効率的な解析のために、血管内皮細胞特異的エンハンサー(F10-44)によってEGFPを発現し、さらに血管壁細胞特異的プロモーター(SM22a)によってDsRed.T4を発現する野生型とFoxo1欠損型ES細胞を作成した。これらの細胞の血管形成モデルを用いて薬剤ライブラリーのスクリーニングや、タイムラプスイメージングによる血管形成過程の動態解析を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、ES細胞による試験管内血管形成モデルを用いたFoxo1の分子メカニズムの解析と、遺伝子改変マウスを用いた血管形成におけるFoxo1の分子機構の解析を行う。 ■ シグナル伝達の分子機構の解析: 現在、Foxo1の標的因子として着目している候補因子の細胞運動、細胞骨格、細胞接着への関与と調節機構の詳細を、関連する阻害剤や活性化剤を用いて検討する。 ■ Foxo1欠損マウスの解析: 現在Foxo1(-/+)マウスの繁殖・維持を行っている。次年度は、Foxo1欠損マウス胚の血管内皮細胞と壁細胞の二重染色による血管伸張や血管成熟の生体での解析を行う。 またFoxo1欠損マウス胚の全胚培養系において、遺伝子導入や阻害剤等を用い、ES細胞の試験管内分化系で得たFoxo1の分子メカニズムによって、実際にFoxo1欠損マウスの血管形成不全を説明できるかどうかを検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度では、マウスES細胞培養系とマウスを用いた解析を計画している。 研究経費は、細胞培養、実験動物の作製と飼育、セルソーター、組織切片作製、免疫抗体染色、遺伝子工学、遺伝子発現解析などの試薬、消耗品費用、また研究成果の発表で使用する計画である。
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Research Products
(6 results)
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[Presentation] 転写因子c-mybの血液幹細胞における発現と機能2012
Author(s)
Hiroshi Sakamoto, Naoki Takeda, Paloma Garcia, Kiyomi Tsuji-Tamura, Saeka Hirota, Jon Frampton and Minetaro Ogawa
Organizer
第74回日本血液学会学術集会
Place of Presentation
国立京都国際会館(京都)
Year and Date
20121019-20121021
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