2012 Fiscal Year Research-status Report
癌抑制遺伝子CYLDの機能解析による口腔癌の分子基盤の新展開と個別化治療への発展
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24792238
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
神力 悟 熊本大学, 医学部附属病院, 特任助教 (00583048)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / 口腔扁平上皮癌 / CYLD / TGFβ / EMT |
Research Abstract |
本研究期間中に以下のような4つの知見が得られた。1.まず、Cylindromatosis (CYLD) の発現は口腔扁平上皮癌(OSCC)の浸潤領域において著しく低下しており、それは不良な生命予後と関連していた。2.OSCC細胞におけるCYLD の発現低下は、ALK5タンパク質を安定化させることでTGFβシグナリングを亢進させ、上皮間葉移行(EMT)様変化を誘導することが明らかとなった。また、GSEAの結果、CYLD発現低下により細胞周期関連遺伝子群およびTGFβ応答遺伝子群が大きく変動していることが明らかとなった。3.CYLD発現抑制は、シスプラチン耐性を含めたアポトーシス抵抗性を誘導する一方で、一部の細胞株(3/7株)ではEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)感受性を著しく増加させた。しかし、CYLD低下細胞はEGFR抗体セツキシマブに対しては耐性を示した。半網羅的リン酸化アレイの結果、CYLD発現抑制を施した際に、EGFR-TKI感受性増加群においてのみMETのリン酸化が促進されていた。4.上記GSEAの結果と並行してCYLD標的shRNA安定発現OSCC細胞は極めて安定的な休眠状態に移行した。 以上より、CYLDの発現低下はTGFβシグナリングの亢進によるEMT様変化や細胞死抵抗性を介してOSCCの転移・再発に密接に関連していることが示唆された。しかし、細胞間による違いはあるものの、このような高度悪性形質を有する細胞はEGFR-TKIに対して極めて脆弱であり、特に予後不良群を対象に新たな治療戦略を開発できる可能性を示している。一方、CYLD発現を低下させたOSCC細胞はニッチ非依存的に安定的な休眠状態を保った。同モデルも用いた今後の検討は、休眠癌細胞の性質解明やOSCCの有効な治療戦略の開発に貢献する可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね当該年度の目標を達成できているが、未だCYLDがALK5の分解を制御する詳細な分子機構、TGFβリガンドが関与しているかどうか、in vivo における検証などに関しては解析が不十分である。その理由には、適切に実験を行うための条件設定に時間を費やしていることが主に挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には当初の研究計画を基盤として検討を進める。しかし、CYLD発現を低下させたOSCC細胞はニッチ非依存的に極めて安定的な休眠状態を保つことが検討の結果明らかとなった。我々の知る限り、このような状態の癌細胞を作製したという報告は初めてである。 臨床上の転移・再発を防ぐ上で最も重要な課題のひとつは、検出不能なレベルで存在する治療抵抗性の腫瘍、すなわち休眠癌細胞をコントロールできるかどうかであると考えられているが、これまで研究モデルが存在しなかったため検討がほとんど進んでいないのが現状である。本モデルは、OSCCの分子基盤の解明に応用することができるだけでなく、休眠状態にある腫瘍細胞の性質や分裂開始に必要なニッチや細胞内シグナルの解明、さらに有効な治療戦略の開発に応用できる可能性がある。さらに検査医学的には、これまで検出不可能であった微小な腫瘍を発見するためのツールの開発に利用できるかもしれない。 当初の研究計画にある重要な検討項目として、マウスにおいてCYLD発現低下がOSCC細胞の転移を促進するかどうかの評価がある。しかし、上記の「静止状態を誘導する」といった結果が示唆することとして、恒常的なCYLD発現低下は、運動能の亢進や細胞死抵抗性などを誘導するため、in vivo の検討においても遠隔臓器への細胞の播種が促進されるものと仮定しているのであるが、細胞分裂が静止状態を維持するのであれば、マクロな転移巣の形成、したがって検出評価が困難になる可能性がある。この現象はまさにtumor dormancyであるが、実験を確実に進めるため、当初の研究目標を達成するためにはCYLD発現を自在に操ることが可能なモデルが必要であると考えられる。次年度では細胞モデルの確実な構築を優先して検討するべきであると考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2年間の計画として申請していたため、次年度の交付を受ける予定である。CYLDによるALK5分解機構、細胞周期やEGFR-TKI感受性の制御機構を解明するためにCYLD結合タンパク質を網羅的に解析する。これには、HaloシステムとLC-MS/MSを用いる。得られた候補タンパク質を発現抑制することでCYLD発現低下で得られる表現型やALK5安定性、EGFR感受性が回復するかどうかを検討する。 特にCYLD発現低下の転移への影響をshCYLD発現OSCC細胞株をマウスに移植して検討する。しかし、CYLDの恒常的な発現抑制によりOSCC細胞は休眠状態に至ることが判明している。そこで、条件的にCYLD発現を低下・回復させることが可能なtet-onシステムを用いて表現型や分子学的な変動の解析を行う。 一方で、CYLDが発現低下する分子学的条件を解析する。申請者は、低酸素でOSCC細胞のCYLD mRNAの発現が不可逆的に著しく抑制されることを見出し、それがエピジェネティックな制御によることを示唆する結果を得ている。そこで、CYLD遺伝子のプロモーター領域CpGアイランドやヒストンにおけるメチル化、アセチル化状態を解析する。ゲノムのプロモーターにおけるメチル化はメチル化特異的PCR法やbisulfiteシークエンス法によって、ヒストンの解析は Chip法によって行う。 さらにOSCCの浸潤領域における CYLD発現低下機構の解析は、浸潤領域および非浸潤領域からマイクロダイセクション法にてそれぞれ採取したDNAを用いて、エピジェネティック制御機構の関与を検討する。また一方で、in vitroにおいて、癌の浸潤に関連するEMT誘導因子や細胞外基質などによるCYLDの発現変化を解析する。 以上の検討により、OSCCの分子基盤の解明と個別化治療法の開発を目指す。
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Research Products
(3 results)