2012 Fiscal Year Research-status Report
関節洗浄液を用いた顎関節疾患のための病理診断システムの構築
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24792251
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Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
三上 俊成 岩手医科大学, 歯学部, 講師 (40405783)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 顎関節症 / 関節洗浄液 / 病理検査 / 顎関節疾患 |
Research Abstract |
臨床的に顎関節症と診断された患者の治療に使われた関節洗浄液を採取し、細胞成分を調べるためにcell block tissue array標本を作製した。それにより得られた関節局所の病理所見を臨床所見と比較した。その結果、44検体中22例で好中球、リンパ球、形質細胞、好酸球、単球系細胞、軟骨粒などが検出された。軟骨成分や単球系細胞(マクロファージ、破骨細胞、異物巨細胞)の同定は特殊染色や免疫染色により可能であった。以上より、関節洗浄液を検体とした一連の検査手技が病理検査に有効であることが確認された。 病理組織学的には、細胞成分が検出された22検体のうち15例が急性炎症、3例が慢性炎症、2例が急性から慢性炎症への移行期と診断され、臨床所見とも矛盾は無かった。微細な軟骨粒が検出された症例では滑膜軟骨腫症と診断された。マクロファージや単球系多核巨細胞が検出された症例では、レントゲンやMRIによる画像所見と併せ、変形性関節症、あるいは骨のリモデリングと判断された。同一患者に関節洗浄を定期的に複数回行った症例ではいずれも臨床所見と病理所見が一致しており、本検査方法の再現性が確認された。また、年齢や経過年月、臨床症状が同様であっても患者ごとに病理所見が異なる場合もあることが分かった。このように、関節洗浄液を用いた病理検査が、顎関節局所の病態に関する新たな情報をもたらし、診断や治療に有用であることが示された。 平成24年度中期から現在までは、顎関節症や様々な顎関節疾患の病因、病態について調べるために、関節洗浄液中の滑膜細胞の初代培養を試みている。文献を参考にして種々の培養液や添加物を用いて初代培養を行っているが、実験に使用可能な滑膜細胞の株化には至っていない。今後は様々な培養条件を検討して株化を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、「顎関節疾患のための病理診断システム」を構築することである。これまでに行った顎関節症患者における顎関節洗浄液の病理検査では、検体に含まれる炎症性細胞の種類から急性炎症、慢性炎症、急性から慢性炎症への移行期、初期の滑膜軟骨腫症、変形性顎関節症、骨のリモデリングについて、実際に病理学的に診断することが可能であった。顎関節症では通常の診査や画像検査で疼痛の原因を明らかにすることが難しい場合もある。本検査法を用いれば、関節洗浄液中に含まれる細胞成分、特に炎症性細胞を調べることで炎症性の疼痛なのか、あるいは筋性など非炎症性の疼痛なのか調べることができる。好中球が優勢であれば急性炎症と判断でき、疼痛の原因が現在も続いている可能性が高い。リンパ球や形質細胞が優勢であれば慢性炎症であると考えられ、臨床所見を考慮しながら疼痛の原因を探ることも可能になる。 多くの顎関節疾患は、初期の臨床症状が顎関節症と共通するため確定診断が遅れることがある。今回検査に用いた検体の1例では、関節洗浄液中に微細な軟骨粒が検出され、臨床診断は顎関節症であったが病理組織学的に初期の滑膜軟骨腫症と確定診断された。臨床的には顎関節症が疑われる場合でも確定診断に至らない場合、関節洗浄を行った際に本検査方法を用いて病理診断を行うことは有効だと考えられる。以上より、顎関節疾患のための病理診断システムの構築に関し、検査手技の確立と診断基準の一部は構築されつつある。 一方、顎関節症の病態解析や様々な顎関節疾患の発症機序を解明することは、より正確な診断と治療に繋がる。また、結晶性関節炎では全身所見や既往歴との関連も重要になる。診断システムを円滑に活用するために臨床上起こりうる問題点や、病院業務との親和性について考慮し、検討を行っていく必用もある。
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Strategy for Future Research Activity |
顎関節洗浄液を用いてさらに詳細に顎関節症および顎関節疾患の病態を解析するために、今後も検体を採取して病理組織学的な解析を行う。 これまでに採取した検体では、44例中22例で診断に有用な炎症精細胞などが検出されたが、残りの22例では検出されなかった。文献的には、顎関節症患者では炎症性細胞が増えているため、健常者の方が顎関節症患者よりも滑液中の細胞成分が少ない。そのため、細胞成分が検出されなかった場合には炎症性変化がないか、あっても顕著でないと考えられる。しかし、顎関節の構造は複雑であり個人差もあることから、手技的問題で細胞成分が採取されなかった偽陰性とも考えられる。今後は、本検査方法では細胞数がどの程度含まれていれば検出可能なのかを明らかにしていく。また、洗浄液中に含まれている炎症性サイトカインについて調べることで、さらに詳細な顎関節局所の病態を調べることができる。細胞成分が検出されない場合でも、炎症性サイトカインの有無を調べることで偽陰性かどうかを判断する材料となる。関節洗浄液に含まれる炎症性サイトカインに関しては既にいくつかの報告がなされている。それらを参考に、関節洗浄液中に含まれている炎症性サイトカインについても調べていく。 顎関節症や様々な顎関節疾患の病因、病態を調べるために、関節洗浄液中の滑膜細胞の初代培養を行っている。文献を参考にして種々の培養液や添加物を用いて初代培養を試みているが、未だ実験に使用可能な滑膜細胞の株化には至っていない。今後はさらに培養条件を検討して初代培養を行い、実験に使用可能な株化細胞の樹立を目指す。滑膜の培養細胞を実験に用いることで、種々の炎症性サイトカインや結晶性関節炎を惹起するリン酸カルシウムが滑膜細胞にどのような影響を与えるか、反応性について調べる。もし株化が困難な場合には、他の関節から採取した滑膜細胞や線維芽細胞の利用する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は主に、(1)顎関節洗浄液の病理検査、(2)顎関節洗浄液を用いた滑膜細胞の初代培養と細胞反応性の検討、(3)顎関節洗浄液中の炎症性サイトカインの検出、以上の3つの実験を行う予定である。 (1)顎関節洗浄液の病理検査:病理検査に用いる材料として、検体固定液、標本作製費、特殊染色や免疫染色に用いる染色(抗体)試薬、必用に応じて電顕用試料の作製費、エックス線回折に係る費用として、研究費を使用する。蛍光抗体法を用いたタンパクの発現解析に用いる蛍光装置、および顕微鏡用デジタルカメラは24年度予算で購入済みである。 (2)顎関節洗浄液を用いた滑膜細胞の初代培養と細胞反応性の検討:初代培養に必用な材料として、培養用プラスチック器具、細胞培養に用いる試薬類の購入に研究費を使用する。また、顎関節症患者の洗浄液中にみられる炎症性サイトカインや、結晶性関節炎を引き起こすリン酸カルシウムが、滑膜培養細胞にどのような影響を与えるか反応性を調べる。その遺伝子解析のためのRNA抽出KitやPCR、電気泳動用試薬、およびプライマーの作製代として、研究費を使用する。 (3)顎関節洗浄液中の炎症性サイトカインの検出:ELISA法による炎症性サイトカインに関連した各タンパク質の検出を検討している。そのために必用な抗体試薬やプレート代として、研究費を使用する。 以上の消耗品費に加えて、研究成果発表のための経費(旅費)や論文別刷代として、研究費を使用する。
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Research Products
(3 results)