2013 Fiscal Year Research-status Report
離乳期の食事環境が自閉症モデルラットの摂食行動や機能発達に与える影響
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24792304
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
大岡 貴史 昭和大学, 歯学部, 講師 (30453632)
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Keywords | 自閉症 / 動物実験 / 摂食行動 / 離乳期 |
Research Abstract |
本年度は,離乳期の自閉症モデルラットを用いて摂食行動の経時的変化について検討を行った. 雄SDラットの自閉症モデルラットおよび対照SDラットを用意し,生後10日に自閉症モデルラットを1匹ずつのケージに移して飼育した.生後11日目に自閉症モデルラットのケージに対照ラットを1匹ずつ追加し,計2匹を同じケージにて飼育した(以下,11G).生後13,17,21,25日目に同様の群を作成し,計5群の飼育を行った(それぞれ13,17,21,25G).飼育期間中の明期は8時から20時,暗期は20時から8時とした. この条件下で,各ラットの体重増加量,食餌摂取量,2匹同時に固形食の摂取を行う回数,摂食時に自閉症モデルラットから対照ラットに向けて体躯を接触させる回数の計測を行った.以上の計測は生後29日まで行い,結果を集計した. 体重の推移では,自閉症モデルラットと対照ラットとの間に飼育期間を通して有意な差は生じなかった.食餌摂取量については,11Gと比較して13G,17G,21Gではそれぞれ13日目,17日目,21日目の数値が低かった.しかし,29日目の数値にはいずれの群でも差はみられなかった.摂食行動の観察結果のうち,ラット同士が同時に食餌を摂取する回数では,13Gでは生後13日目と27日目の数値は11Gの数値と近似していたが,他の日の数値は11Gよりも低値を示した.また,17G,21G,25Gでは11Gの数値よりも低かった.ラット同士の体躯の接触回数では,21Gと25Gの数値が他群よりも顕著に低かった.本研究から,ケージに新たなラットが追加された日にはラットの食餌摂取量が低下すること,離乳期の終了後に対称ラットと飼育した場合は同時に摂食行動を起こすことが少ないことが示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自閉症モデルラットを用いた実験では、離乳期において対照ラットとの間に体重増加や外観にあきらかな差異はみられず、モデルラットの作成や飼育は問題なく行われていると思われる。モデルラットの作成に際して、母獣の予想外の死亡や出産異常などはなく、数例で母獣が仔ラットを飼育せず放置するという状態がみられたが、これはモデルラットおよび対照ラット両方の母獣でみられ、モデルラット作成によるエラーとは考えにくい。一方で、ヒトの自閉症児においては摂食行動異常が多くみられ、その一部である「他者との相互関係」「昼夜の食事・生活リズム」の異常がモデルラットでも確認された。また、モデルラットと対照ラットを同ケージで飼育しても、飼育上の問題は起こらず、継時的な行動観察が可能であることが確認された。そのため、モデルラットを用いて摂食行動の観察や対照ラットとの相互作用の変化を今後も継続して実施できると考えられる。 本年度までの予定としては、モデルラットの作成と飼育方法の確立、ならびに摂食行動や食餌摂取量の定量的な観察を行うこととしており、当初の目標はほぼ達成していると考えられる。さらに、今年度は昼夜での食餌摂取量、水分摂取量の測定が行え、予定していた摂食行動の観察評価はほぼ達成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
摂食行動は脳幹部の満腹中枢をはじめとして中枢神経の支配を受けている。また、摂食機能発達にについても三叉神経などを中心とする中枢神経核の成熟が大きな役割を果たす。26年度は、ASDモデルラットに生じた摂食行動の特徴神経活動について解明を行う。 申請者らが行ったこれまでの研究では、摂食に対する受容(快・不快)については結合腕傍核に、摂食機能の成熟については舌下神経核、三叉神経核、迷走神経核にて、食欲の認知は海馬にて神経活動を指標とした比較検討を行っている。本研究では、ASDモデルラットでは対照ラットと比較してこれらのいずれにも差異が生じると推察される。実際のASD児では機能的問題よりも食欲のなさ、異常な摂食行動が多く観察されることから、ASDモデルラットでは摂食行動に深く関与する海馬や結合腕傍核で対照ラットとの大きな違いが現れるものと予想している。 一方で、ASDモデルラットと対照ラットを混合飼育することで摂食行動に変化が生じることも推察されているため、この場合は成育環境の変化によって摂食行動の差異が生じたことで適切な摂食行動が促され、結果として食欲の発生や摂食期機能の発達・成熟にも変化が生じると考えられる。中枢神経核の活動変化を定量的に測定する方法として、摂食行動や摂食機能発達に関与する中枢神経核の免疫組織学的観察(FosタンパクやニューロペプチドYの発現量の測定)を用いる予定である。これにより、25年度までに明らかにされたASDモデルラットの特徴的な摂食行動と中枢神経核の活動との関連を解明するとともに、食環境の変化が広義の摂食機能発達に関与する中枢神経活動の変化にどのような影響をもたらすかについても検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
モデルラット作成にあたり、当初の予定では新たに母獣を購入する予定であったが、健常ラットを用いて継代飼育を行ったため、新たな母獣を購入する費用が不要となった。また、ラットの体重増加不良や想定外の死亡例など、予想された飼育上の問題点がほとんど生じず、必要なラット数が順調に確保できたことで実験費用の支出を抑制できたことで物品の購入が少なくなった。 26年度は、摂食行動の変化や特徴と中枢神経における神経活動との関連を生理学的に観察する予定であり、繰り越された費用は組織切片の染色や摂食行動に関する神経伝達物質の計測に使用する。具体的には、ラットの抜脳に必要な器具や薬品の購入、FosタンパクやニューロペプチドYを免疫組織学的に計測するための試薬の購入に充てられる。また、それらの画像資料のデータ保存のための機器購入、および得られた研究成果の発表や論文投稿に予算を使用する予定である。
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