2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24792362
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
中川 量晴 昭和大学, 歯学部, 助教 (60585719)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 摂食嚥下障害 / 誤嚥性肺炎 / 咽頭微小電気刺激 / 超音波エコー |
Research Abstract |
“誤嚥性肺炎”は、主に摂食嚥下障害に起因し、近年日本人の死因第4位となった。咀嚼・嚥下機能の評価・治療・指導管理に関わる歯科医の役割は、社会的にも非常に注目されている。近年、我々は、科学的根拠に基づいた嚥下訓練法開発のため、健康成人を対象として、嚥下誘発に関わる咽頭領域の微小電気刺激条件等の基礎データを取得し、超音波エコー法により嚥下反射誘発動態をモニターできることを明らかにした。しかしながら健康成人を対象とした嚥下誘発に関わる咽頭領域の微小電気刺激条件等の基礎データはいまだ充分ではない。本研究では、健康成人の嚥下誘発に関わる基礎データのより詳細な解析を行うことを目的とした。 健常成人男性12名(平均年齢28.4歳,26~34歳)を対象とした。USと内視鏡画像を同期させて咽頭領域を描出し,刺激プローブで中咽頭を微小電気刺激した。様々な刺激条件下で,嚥下動態をUS上で観察しながら知覚閾値と嚥下誘発閾値を記録した。嚥下誘発が明らかな被験者(n=7)に対して,30秒間繰り返し唾液を飲み込ませ,刺激した場合としない場合の嚥下回数を比較した。 咽頭後壁に接着する刺激電極をUS画像上で陰影として観察することが可能であった。咽頭領域を刺激したときの知覚閾値は,10Hzでは0.9±0.2 mA,15Hzでは0.7±0.2 mAで,嚥下誘発閾値は,10Hzでは1.4±0.3 mA,15Hzでは1.2±0.3 mAであった。また30秒間の総嚥下回数および後半15秒の嚥下回数は,咽頭刺激により有意に増加した。USを咽頭へ応用することで,嚥下動態を観察することが可能であり,咽頭に留置した刺激電極はUS画像上で観察可能であった.また刺激により随意嚥下の回数は増加したことから,適正な刺激を実施できる条件下においては,臨床的な基礎訓練へ応用できる可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
超音波エコー(US)を咽頭へ応用することで、嚥下動態を観察することが可能であり、咽頭に留置した刺激電極はUS画像上において観察可能であることが明らかになった。健常成人に対して中咽頭領域へ微小電気刺激を行い、嚥下反射を誘発する刺激パラメータを解析した結果、10-15Hzかつ0.7-1.4mAの範囲であることが示された。 この結果に基づいた適正刺激強度により中咽頭を刺激することで、意識的に嚥下をした場合の嚥下回数および嚥下間インターバルを解析した。その結果、30秒間の意識的な嚥下回数は増加し、嚥下間インターバルは減少した。さらに30秒を前半15秒および後半15秒に分けて解析すると、後半15秒の嚥下回数がより有意に増加することが明らかとなった。即ち、随意嚥下時に咽頭刺激を与えることで、嚥下反射の閾値が低下し嚥下しやすい状態を維持できる可能性が示された。これらの結果から、中咽頭領域への微小電気刺激は、臨床的な基礎訓練へ応用できる可能性が示唆された。 以上の研究成果は、学会発表(国際学会;Dysphagia Research Society the 21th Annual Meeting, Seattle、国内学会;第23回日本老年歯科医学会学術大会、つくば)で広く周知した。
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Strategy for Future Research Activity |
健常成人に対する嚥下反射応答の解析はおおむね完了し、今後は脳血管障害(以下、CVA)由来の嚥下障害をもつ成人を対象として研究を推進する。嚥下障害の病態は多岐にわたるため、障害の程度が同程度な被験者を選定する必要がある。まず原疾患をCVAに限定するが、CVA発症からの期間・全身状態の安定度・誤嚥性肺炎の既往を聴取し、同様な経過をたどった者を対象とする。ただし他疾患との重複、服薬状況が明らかに異なる者は除外する。 研究を実施する環境にも配慮する。嚥下応答の解析はそれぞれ別の日に行うが、同じ場所、時刻に合わせる。また、あらかじめ当日の健康状態などを聴取し、それらにばらつきがないことを確認する。被験者はチェアーに自然な姿勢で安静に座り、咽頭刺激プローブを経鼻的に咽頭へ挿入する。探触子を矢状角・仰角それぞれ30度に設定して顎下部に接触させ、US画像で咽頭領域を描出する。咽頭刺激は、前年度に健常成人を対象とした研究で確立された刺激パラメータ(10-15Hz,0.7-1.4mAの範囲)を用いる。嚥下障害がある患者を対象にするため、嚥下反射誘発が困難な場合が予想されるため、その場合は刺激パラメータの設定を変更し、刺激強度、頻度、持続時間の再検討を行う。研究環境および被験者の状態によりUSの適応が困難な場合は、持ち運びが可能な内視鏡を用いて、嚥下動態の観察を行う予定である。また、嚥下反射の誘発が不可能な患者の場合は、即時に咽頭刺激を中断し、他のリハビリテーションを施行する予定である。 CVA由来の嚥下障害患者に対して咽頭微小電気刺激を行った場合の嚥下応答の解析結果をまとめ、前年度の研究成果と合わせて、学会発表・論文投稿を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の研究における被験者はすべて健常成人であったため、研究室内においてデータ取得が可能であった。本研究施設は、本研究の中心をなす画像評価に必要な超音波診断装置(Toshiba社製、Powervision6000)およびコンベックスタイプの探触子(東芝メディカル社製 PVM 375AT)を設備している。 次年度においては、嚥下障害者を対象とすることから、全身的な活動性や生活環境に配慮し、研究室内へ搬送できない場合が予想される。その際の嚥下動態解析は、持ち運びが可能な超音波診断装置もしくは内視鏡が必要となる。次年度の研究費には、それらの研究遂行に必要な備品を計上する。また刺激電極作製に必要なニッケルチタンワイヤー 、導電性鉛箔テープなどの消耗品費や研究成果発表のため国内・国外学会への参加経費を引き続き積算した。さらにボランティアを被験者とするため、交通費を含めた若干の謝金を用意する予定である。
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