2012 Fiscal Year Research-status Report
タブレット型端末を利用した地域在宅療養者の服薬管理支援システムの構築
Project/Area Number |
24792551
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
内海 桃絵 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40585973)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 在宅医療 / 情報共有 / iPad |
Research Abstract |
超高齢社会の進行とともに病院中心の医療から在宅医療・介護のニーズが増加している。効果的な在宅医療・介護の提供には、多職種による緊密な情報共有システムが必要であるが、いまだ有効なシステムは確立されていない。そこで、我々は、「電子連絡ノート」の開発を行っている。「電子連絡ノート」は、療養者・家族、在宅医療介護スタッフとの情報共有ツールとして開発したiPadのアプリケーションである。 一方、在宅高齢者が抱える問題のひとつに服薬管理がある。高齢者は加齢とともに慢性疾患への罹患割合が多くなり、服薬の機会は増加するが、在宅高齢者の40~50%は医師の処方通りに服用できていない。薬剤が効果を発揮するには、服薬アドヒアランスの良好な維持が不可欠である。しかし、在宅高齢者においては、自己判断で服薬を中止している事例、飲みきれず残薬が膨大になる事例が珍しくない。高齢者は、若年者に比べて薬物有害作用が発生しやすく、重篤化することが多いため、早期発見と対処が必要となる。しかし、在宅医療では、ケアスタッフと利用者が接触する機会は限られ、ケアスタッフは滞在するわずかな時間で利用者の服薬状況と有害作用の有無を判断することを迫られている。 チーム医療の推進に関する検討会報告書(厚生労働省2010)では、薬剤師の積極的な活用を促しているが、薬剤師による在宅医療への関与、薬剤師と他職種との連携が良好な地域は少ない。ある訪問看護事業所では利用者の7割に訪問看護師が服薬支援を行い、また別の報告では、訪問看護業務の45%以上で「薬の内服介助」を実施しており、在宅療養者の服薬管理に看護職が果たす役割は依然として大きい。そこで、本研究では、服薬管理支援のためのアプリケーションを開発し、在宅療養者の毎日の服薬状況と薬物有害症状をリアルタイムで確認できるシステムを構築することを目的とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電子連絡ノートには医師、訪問看護師等が業務内容を書き込める画面があったが、そこに薬剤師業務情報を入力するための新たな画面を作成した。様々な薬剤を使用している療養者に汎用可能なこと、簡単に入力できることを考慮し、シンプルな画面構成とした。 薬剤師業務情報アプリケーションを組み込んだ電子連絡ノートの有用性の検証を京都府薬剤師会、京丹波町と協働して実施した。平成24年10月から平成25年2月までの約4か月間電子連絡ノートを療養者宅に設置した。参加した職種は在宅療養者6名、医師21名、薬剤師2名、看護師6名、ケアマネジャー1名、理学療法士1名であった。電子連絡ノートの使用前と使用後に質問紙調査および聞き取り調査を行い、電子連絡ノートによる通信内容の分析を行った。 電子連絡ノート使用前のアンケート調査では、療養者は現状の情報共有で満足していたが、医療スタッフは、より多くの情報共有が必要だと回答した。電子連絡ノートには、1日に平均1.8件の入力があった。療養者からのメッセージ入力に対するスタッフの返信までの時間は約1時間であった。職種別の入力状況は、療養者・家族75.0%と最も多く、訪問看護師8.3%、理学療法士5.2%、薬剤師3.8%、ヘルパー2.8%、ケアマネジャー2.6%、医師1.1%の順であった。 運用開始後、電子連絡ノートの本研究の対象者以外の療養者について、看護師から薬剤師に対し服薬指導や退院時カンファレンスへの参加依頼があった。これは、電子連絡ノートに薬剤師がコメントを残すことで、他職種のスタッフが在宅医療における薬剤師の役割業務を理解再確認したためと考えられる。電子連絡ノートの使用により、各職種間で在宅ケアの内容が可視化され、地域在宅医療における多職種連携が促進される可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、療養者自身に服薬状況と薬物有害作用の有無を入力してもらい、その情報を在 宅医療チームや、さらには遠隔地の家族が情報共有するシステムの構築を考えている。それにより、在宅療養者が入力できていない場合には、メールや電話等で服薬を促すことや、予定外に訪問することが可能となると考える。さらに、「電子お薬手帳」の運用が普及した場合は、「電子お薬手帳」と連動した服薬管理支援システムを構築することも可能である。 薬の服用状況や薬効、副作用の情報が重要になるケースとして、がんのターミナル期にある療養者と医療スタッフが電子連絡ノートの使用を開始している。また、その療養者には、遠方に住む子供がおり、遠隔地の家族が情報共有するシステム構築の第一歩となると考えている。今後はこのようなケースを蓄積し、修正点を改善し、より多くの人が長期間使用可能なものにしていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費として33万円を使用する計画である。内訳は、iPad使用料(5,500円×5台×12か月である。 旅費として45万円を使用する計画である。内訳は、研究成果発表会として韓国の学会への出席で20万円、国内の学会への出席3回(大阪、東京、秋田)で計20万円を予定している。また、データ収集のために、敦賀ケアセンターかくだへ5回(5,500円×5回=27,500円)、京丹波町へ5回(4,500円×5回=22,500円)の出張を計画している。 人件費・謝金として10万円を使用する計画である。内訳は2人×50時間×1,000円である。 その他として、インタビューデータの逐語録作成に10万円、アプリケーション開発補助費として20万円、英文校正代として12万円を予定している。
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