2012 Fiscal Year Annual Research Report
韻律と説話構成に基づくアパブランシャ語の歴史的展開の研究
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24820001
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山畑 倫志 北海道大学, 文学研究科, 専門研究員 (00528234)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | インド文学 / インド語学 / アパブランシャ語 / ジャイナ教 / グジャラート文学 / 韻律学 / 国際情報交換 / インド |
Research Abstract |
本研究ではアパブランシャ語文献の中に見られる雑多で変異の大きい諸特徴を整理し、規範化以前の初期段階、文語としての完成期、近代インド語への移行期に分類することを目的とする。本年度は次の4点の研究活動を行った。 1.「初期アパブランシャ語の推定について」インドの古典文献に用いられる韻律は時代によって変化するため作成時期の推定に利用できる。アパブランシャ語の時代には従来の音節数に基づく韻律からモーラ数を基礎にした韻律への移行が大きく進み、脚韻の多用などの新しい特徴も出現する。このような韻律の変化を材料として初期アパブランシャ語抽出の可能性を検討した。日本南アジア学会第25回全国大会にて発表。 2. 「ラーソー文学の由来について」初期のラーソー文学はジャイナ教徒が主体となって作成されており、その内容も後の英雄伝記よりもジャイナ教のアパブランシャ語説話により近いことがわかる。従来は歌謡として用いらたラーソーが文学作品になる過程で、ジャイナ教徒がその形式を採用したことは重要なことと考えられる。『印度哲学仏教学』第61巻第1号に投稿。 3. 「10-12世紀グジャラートにおけるジャイナ教聖者伝の展開」10世紀から12世紀にかけてアパブランシャ語によるジャイナ教行伝説話は主題の多様化、形式の精緻化の傾向が強まり盛んに作品が作られる。それに対してグジャラート最古の文学である「ラーソー」も12世紀頃から同じ地域で出現する。ジャイナ教聖者伝のラーソーに対する影響を時代背景を含めて論じる。2012年度バクティ研究会にて発表。 4. 「現地における写本調査」平成24年12月23日から平成25年1月4日にかけてインドにおいて写本調査を行った。以前よりIGNCAやRORIに加えてアーメダーバードのLDIやグジャラート文学アカデミーといった古グジャラート語文献所蔵の研究所の協力も仰ぐことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画で予定していたアパブランシャ語、古グジャラート語などの写本情報収集およびコーパスの作成だが、本年度に実施した現地調査において以前から様々な助力をいただいているアパブランシャ文学アカデミー、IGNCA、RORIに加え、LDIとグジャラート文学アカデミーといった古グジャラート文学やラーソー文学と関係の深い研究所とも協力関係を築くことができた。そのため、写本の収集、関連情報の集積が当初の計画よりも大幅に進展することとなった。 また初期アパブランシャ語抽出のための韻律についてはBhayaniの論考を参考にしつつアパブランシャ語の規範化以前から使用されてきた韻律をいくつか選び出すことができている。それらを用いた韻律の抽出作業は現在進行中である。 ラーソー文学とジャイナ教行伝説話の関係については、字句や構造の類似点を見いだし、個々の文献間の影響関係を明らかにすることを軸としている。さらにそれに加えて、行伝説話からラーソー文学への転換を10世紀から12世紀の北インド社会の大変化、ジャイナ教教団の存立基盤の変化など視野に入れている。文学形式の変化はただそれのみで生じるとは考えがたく、その背景には社会や政治体制の変化があることがむしろ一般的と思われる。本研究テーマにもそのような背景があることが研究を進めていく中で明らかになってきた。特にジャイナ教団の社会的位置づけの変化、同時期の仏教教団の衰退との比較、教団や教義に対するイスラーム教の影響などは本テーマとの関連が強く、今後研究を深めることが必要である。この点においても研究の視野が大きく広がったという意味で当初の計画よりも大幅に進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究目的の達成のために下記2点の方策で研究を推進していく。 1. 説話形式の変遷の整理 アパブランシャ語のジャイナ行伝説話にはサンスクリット語などの文学とは別の独特の形式があり、それはサンディ・バンダと称される。この形式はアパブランシャ語の規範化以前から盛んに用いられている。また詩論書にはサンディ・バンダと並べてラーサー・バンダという形式が言及されている。これは後代のラーソーに当たり、十二世紀以後普及し、十五世紀には多く見られる。これは歌謡や舞踏により近い形式であり、規範化されたサンディ・バンダの後に流行した形式である。このように同じアパブランシャ語文学でもその形式構造には変遷があり、初期段階から規範化、近代文学への移行が捉えられる。各テキストの相対年代と照応させることでその全体像を見いだしていく。困難を感じた場合は各種現地研究機関の研究員に助言を仰ぐ。 2. 古ラージャスターン語や古グジャラート語文献との比較 十二世紀頃からインド西部ではラーソーと呼ばれる英雄物語が多数作られる。直接にはそれらとジャイナ教行伝説話との関連は見いだしがたい。だが最初期のラーソー文学の成立期はアパブランシャ語文学の最盛期と重なっている。実際、グジャラート語のもっとも早期の作品はジャイナ教の神話を扱った作品である。一見関連が無いように見えるジャイナ教行伝説話とヒンドゥー英雄物語はラーソーという形式により繋がりを持つ。中期インド語文学の伝統はほぼ絶え果てているが、最後の中期インド語であるアパブランシャ語を最後にジャイナ教文学の最盛期は終わる一方、そこで積み上げられた経験は次世代の文学へと継承される。そのような希有な連続性を示す証拠としてラーソー文学の研究は重要である。ここでは初期ラーソー文学の発展過程を明らかにする。アーメダーバードのグジャラート文学アカデミーの助力を求めながら進めていく。
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Research Products
(3 results)