2012 Fiscal Year Annual Research Report
戦後の中国文学における知識人の接触と台湾モダニズム文学生成の関係性の解明
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24820026
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
小笠原 淳 神戸大学, その他の研究科, 講師 (70634137)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 中国文学 / 比較文学 / モダニズム |
Research Abstract |
本研究に関する一次資料及び二次資料を国内外で広く収集した。それをもとに『文學雜誌』と『現代文學』を中心とした五〇~六〇年代の文芸誌掲載の小説テクストを対象に作品の精読を進め、小説スタイルの分類作業を行った。併せて四〇年代日本統治期の台湾文学作品を収集し比較分析を行った。資料の収集先は、国立国会図書館(東京)、日台交流センター(東京)、国立台湾大学図書館(台北)、台湾国家図書館(台北)、高雄歴史博物館(高雄)、国立台湾文学館(台南)、楊逵記念館(台南新化)、及び日本と台湾の書店などである。本計画年度、台湾へ二度渡航した。2012年12月21日には、台湾大学で開催されたコロキアム「東亞的域外體驗與文化接觸──由語言探討日本與台灣以及中國大陸的文化往來」に参加し、「試論戰後台灣文學中的現代主義敘述特徴――《現代文學》與舞鶴作品的敘述脈絡」の題目で口頭発表を行った。この発表は白先勇、王文興ら六〇年代の台湾モダニズム文学の叙述上の特色を精査し、彼らの延長線上に九〇年代の台湾作家舞鶴の創作を見出してその継承関係を論じたものである。二度目の台湾渡航では、戦後のモダニズム作家の調査と資料収集に加え(台湾大学、国立台湾文学館、台湾国家図書館)、日本統治期から戦後にかけて活躍した台湾人作家楊逵の調査も実施した。楊逵記念館では楊逵の次男である楊建氏に取材する貴重な機会を得た(2013年3月9日)。関連する論文の執筆実績として、『戦後台湾小説的現代性叙述脈略――論白先勇的書写変遷』(2013年3月)、「白先勇『ゲッ子』と台北――移ろいゆく都市の記憶」、緒形康編『アジア・ディアスポラと植民地近代』(2013年3月)、「死者と母の郷土表象――舞鶴「拾骨」論」『野草』90号(2012年8月)を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内外での資料収集と台湾における現地調査、それをもとにした研究分析、いずれもおおむね順調に進展している。台湾で行われた国際学術コロキアム「東亞的域外體驗與文化接觸──由語言探討日本與台灣以及中國大陸的文化往來」(2012年12月21日)では、口頭発表「試論戰後台灣文學中的現代主義敘述特徴――《現代文學》與舞鶴作品的敘述脈絡」を行い、戦後台湾文学の叙述特色について論じた。現地調査では、日本統治期から戦後にかけて活躍した台湾作家楊逵の次男である楊建氏に取材する機会も得た(2013年3月9日)。台北で開催された「白崇禧與二二八事件」などの学術シンポジウムにも積極的に足を運び、六〇年代モダニズム文学の中心作家の一人白先勇に対する理解を深めるよう努力している。こうした研究を通じて、台湾モダニズム文学が生成されていくプロセスの一端を明らかにした。 また、『戦後台湾小説的現代性叙述脈略――論白先勇的書写変遷』(神戸大学若手研究者インターナショナル・トレーニングプログラム推進委員会、2013年3月)、「白先勇『ゲッ子』と台北――移ろいゆく都市の記憶」、緒形康編『アジア・ディアスポラと植民地近代』(勉誠出版、2013年3月)、「死者と母の郷土表象――舞鶴「拾骨」論」『野草』90号(中国文芸研究会、2012年8月)などの関連論文も順次執筆して、本年度の計画目標を達成している。以上が本研究課題の到達度が「おおむね順調に進展している」とする理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策としては、四〇年代の中国大陸と戦後の台湾モダニズム文学の連動性を考察する必要があるため、四〇年代中国における夏濟安の足跡を精査することが必要だ。 したがって今後は夏濟安の大陸時代の調査・分析を開始する。本計画年度においては、実際に中国に赴き夏濟安に関連する資料をできるだけ多く収集する。夏が蘇州中学時代に発表した「被選為国語演説代表有感」(『蘇中学刊』第九二期、一九三三)や夏が教鞭を執った西南聯合大学、北京大学外文系時代の関連資料を収集したい。この方面では、北京大学中文系の賀桂梅教授に協力を要請したい。夏濟安とその周囲にいた外文系出身の文学者たちが一九四〇年当時に掲げていた文学理念をできるだけ多くの文献を通じて理解することで、本研究の課題である四〇年代中国文学と戦後台湾モダニズム文学の継承関係を明らかにしたい。こうして得られた研究成果を、中国文芸研究会や台湾学会で発表したい。 台湾で収集した資料と情報をもとにテクスト分析と情報の解析を続けるとともに、五〇~六〇年代台湾モダニズム文学の分布状況を作成する。テクスト分析を中心的な研究方法とし、彼らのモダニズムテクストにおいて、どのような小説のテーマにどのような小説の技巧が用いられたのか、そのテーマと技巧にはどのような関係性があるのか、という点を中心に分析結果をまとめていきたい。夏濟安の新詩や文学理論、白先勇や王文興、王禎和、叢甦らの初期短編小説の創作に加えて、日本統治時代の作家楊逵、張文環、坂口玲子を新たな分析対象に加え、知識人と言語が複雑に交錯して一つの場を形成した四〇年代以後の「台湾」というモダニズム文学の接触空間を考える。上述したような計画を遂行するために、台湾に短期滞在して、引き続き資料収集と調査を続ける。
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Research Products
(4 results)