2012 Fiscal Year Annual Research Report
フランソワ・ラブレーの描写における技巧と形象の研究
Project/Area Number |
24820039
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
岩下 綾 慶應義塾大学, 法学部, 講師 (40633821)
|
Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
|
Keywords | ラブレー / 描写 |
Research Abstract |
本研究初年度となる平成24年は、フランソワ・ラブレー作品の描写技巧および描かれたものの形象と16世紀の造形芸術との比較研究を行うため、『ガルガンチュア物語』『パンタグリュエル物語』全五作品における描写表現の抽出と、主にイタリア、フランスの建築家および建築物の調査、研究を行った。 まず、これまで調査を行ってきた『第四の書』における描写技巧の総括の第一段階として、描かれる怪物の虚構と現実の様態について分析を行った。『第四の書』のシャチヨン枢機卿への書状において、ラブレーは自ら一連の作品を「パンタグリュエルのミトロジー」とし、さらに「ミトロジー」に注釈を付して「架空の物語、記述」としている。そのことから、本書においては前作に比べてより熟考された形で現実と虚構の遊戯が試みられていると考えられた。したがって16世紀における虚構の概念の調査を行った後、特に『第四の書』に登場する怪物をとりあげ、虚構の度合いを比較した。16世紀の虚構概念についての調査をさらに掘り下げる必要がある。 ラブレー作品の描写表現の抽出とその分析作業については、特に第一作『パンタグリュエル物語』に関しては、造形芸術との関連性が弱いという点が明らかになりつつあり、それは本作がラブレーのイタリア旅行前であるという観点からも証明される。 また、24年度は重点的に実地調査を行った。とりわけ、イタリアのファルネーゼ宮には、当時のフレスコ画、スタッコ装飾、サテュロスの像などが残されているが(大使館内であるため見学は一部のみ)、それらの美術作品がフランス(特にフォンテーヌブロー城)と密接に関係していることが分かった。建築物についての二次資料は多く出版されているものの、必ずしも細部への言及がなされているわけではないため、この成果はラブレーとイタリア旅行および装飾芸術の問題を考察するにあたって有益な資料となった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の作業はフィールドワークおよび資料収集が大部分を占めた。事前に文献調査を行い、ラブレーが目にした可能性のある造形芸術作品のうちのいくつかを訪ねた。ファルネーゼ宮が現在フランス大使館として使用されているため、見学可能な場所が制限され、また、フェッラーラでは、スキファノイア宮殿やエステンセ城のほとんどのフレスコ画が、2012年のエミリア・ロマーニャ地方の地震の被害を受けて剥がれ落ちていたため、予想ほどの資料収集ができなかったが、研究を進める上で重要な造形芸術品は数点確認することができた。今回の実地調査で確認できなかった分は、今後の資料調査で補う予定である。 また、調査の順については前後する可能性があることを予測していたため、研究の方針に大きな変更はない。24年度でおおまかなフィールドワークを終え、25年度はそれらの総括と文献調査により研究を推進する。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度となる平成25年度は、24年度までに収集した資料をもとに、造形芸術とラブレーの描写の結びつきを、人的関係の調査から明らかにし、改めてラブレーの描写の意義を読み解く。 ラブレー作品の描写表現の抽出とその分析作業を継続しながら、作家がイタリア旅行周辺で交流をもった人的関係の調査を行う。そこで明らかになったフランスおよびイタリアの建築家の建築理論や美学理論から、ラブレーが創作の際に想を得た特定の理論を浮き彫りにできると考えている。虚構性のテーマについては、16世紀全般の虚構概念の調査をさらに掘り下げる必要があるが、本研究のテーマの範囲を超える可能性があるため、25年度は描写技巧と造形芸術の比較およびその意義の範疇に留める予定である。 また成果の発表に関しては、23年度までと比べるとフランスへの渡航が容易ではないため、国外での学会発表の機会が減少しているが、学内の紀要等で発表していく予定である。
|
Research Products
(3 results)