2012 Fiscal Year Annual Research Report
中世後期クレタにおけるヴェネツィア人とギリシア人の「共生」の構築過程
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24820042
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
高田 良太 駒澤大学, 文学部, 講師 (80632067)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | ビザンツ帝国 / ヴェネツィア / 異文化コミュニケーション / セグレゲーション |
Research Abstract |
13世紀にビザンツ領からヴェネツィア領となったクレタでは、新しい支配者に対する島民の反乱が頻発した。この反乱の時代を、「不安定な時代」や「ビザンツへの復帰が考えられた時代」ととらえるような先行研究に対して、本研究ではこの時代を14世紀以降に島内で安定した秩序が形成される前段階ととらえ、支配者(ヴェネツィア人)と被支配者(ギリシア人)の間での交流とコミュニケーションの実態と、そうした交流の積み重ねが具体的にどのような秩序の在り方に結実していくのかを、跡づけていくことが、本研究の主眼となる。 本研究の遂行のうえでは、社会経済史アプローチを可能とする公証人文書と、政治史的アプローチのための和平協約・年代記史料を横断的に分析することが重要となるが、本年度はとりわけ和平協約・年代記史料の分析を集中して行った。その結果、明らかになってきたのは分離共生のためのプラットフォームが1280年代から90年代にかけての、アレクシオス・カレルギスの反乱の発生と終息のプロセスのなかで形作られてきた公算が強いということである。カレルギスは、影響下にあるギリシア人をとりまとめ、ヴェネツィアからみて支配の受け皿となりうる集団を形成した。その上で、ヴェネツィア人の協力者の仲介のもとにヴェネツィア総督との間で協議を繰り返し、1299年4月には両者の間での懸案となる教会領域の問題を棚上げにして和平を結ぶことに成功した。 以上のような和平プロセスはしかし、二つの問題を残すこととなった。それはアレクシオスの影響下にはないギリシア人たちの孤立を生んでしまったこと、いまひとつは教会領域の問題が棚上げされたことで、島内の問題に教皇庁が介入する余地が残ったことである。概説的には14世紀の到来は、「平和」の幕開けであったと理解されるが、その内実には不確定の要素が多く残されていたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は政治史における和平のプロセスと、社会史的な交流の事例とを重ね併せ、宗教・言語・法を異にする集団が一定の秩序のもとに統合されていく様相を多角的に捉えることを目的としている。 本年度の研究の目的の一つは政治的なプロセスを史料に基づいて実証的に明らかにすることにあり、この点については概ね史料に基づいた分析を達成することができたといえる。 本研究のもうひとつの柱である社会史的なアプローチについては、刊行史料の収拾と読解作業について特に精力的に行った。また、未公刊文書の史料調査も集中的に行い、研究を進める上での基礎的なデータを揃えることができた。 成果についても平成24年12月15日には、早稲田大学の西洋史研究会大会において本研究と密接な関係をもつ発表を行うことができた。分析結果と成果報告についても、公刊に向けた準備が順調に進んでおり、概ね計画にそった研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まず来年度の夏期に史料調査を実施する必要がある。ヴェネツィアの国立文書館において昨年度は時間の制約からデジタル化できなかった公証人記録簿が2点あり、それらの記録を撮影する作業を行う。次に、こうした未公刊文書のなかでヴェネツィア人とギリシア人の交流に関わる記録をピックアップしてデータベース化する作業が、来年度の大きな課題となるだろう。本年度の史料調査時において数点の史料の読解を行っており、その作業がそのデータベース化をすすめる上での雛形となる。 こうしたデータベースの解析もあわせて進めていく。具体的には年代による変化を明らかにしていく。公刊された公証人記録簿の検討から、1270年代のラテン語の公証人文書のなかにギリシア人の名前がほとんど現れないが、13世紀末以降、ギリシア人が頻繁に登場するようになる。まずはギリシア人たちが史料中にあらわれる頻度を、史料毎に考えていく必要があるだろう。 またギリシア人のなかの多様性も問題となる。このギリシア人のなかには山間部を拠点とし反乱の首謀者となった、アルコンと呼ばれる名望家もいれば、ヴェネツィア人の影響下にある都市農村部の人々、さらに島外からやってきた人々もいる。彼らの作成する文書の傾向を分析することで、ひとくちにギリシア人といってもヴェネツィア人との関係は彼らが置かれた立場によって異なることが明らかとなる。特に、アルコンが社会的にヴェネツィア人とどういう関係を取り結んでいたのか、それは13世紀末をはさんでどのように変化していくのか、この点を明らかにすることで、本年度明らかにしたヴェネツィアの植民地政府とアルコンとの政治的な関係の変化をより立体的に捉えることができるようになる。 以上の研究内容について、成果の公刊作業についても進めていく。
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Research Products
(5 results)