2012 Fiscal Year Annual Research Report
明代朱載イクの楽律思想における「理」・「気」・「数」概念の分析
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24820048
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
田中 有紀 立正大学, 経済学部, 講師 (10632680)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 中国哲学 / 中国思想史 / 中国音楽史 / 芸術学 / 美学 |
Research Abstract |
第一に、中国儒学における楽の思想の概説的整理を行った。朱載イクの学術を明らかにするため、そもそも中国儒学の中で楽はどのように論じられてきたのか、その歴史的変遷をまとめた。主な論点は、儒学思想における礼と楽の関係(『荀子』楽論や『礼記』楽記の分析)、漢代の律暦思想、道家の音楽論、唐代の雅楽・俗楽・胡楽の関係、北宋楽論の変遷と、蔡元定による音律学の体系化、明代楽制の変遷、清代の朱載イク理解、さらには近現代中国で伝統音楽がどのように理解されたか、などである。これらについては、勤務校である立正大学での講義をもとに、著書のための原稿を作った。 第二に、朱載イクの「理」・「気」・「数」観の源泉を探るため、何トウの『陰陽管見』を分析した。朱載イクの「理」・「気」・「数」に対する考え方は、南宋の朱熹や蔡元定、そして『授時暦』の「理」・「気」・「数」観とは大きな隔たりがある。朱載イクは著書の中で、親戚関係にある何トウの言をしばしば引用し、学術的に大きく影響を受けていた。本研究では、特に何トウの陰陽二元論と楽律論が、朱載イクの三分損益法の否定に影響を与え、平均律の発明へとつながったのではないかという可能性を示した。 第三に、朱載イクの数学理論の分析を行った。朱載イクの「数」思想が、彼の数学書の中に具体的にどう現れているかを分析した。朱載イクの数学史上の功績としては、律管作成にあたり独自の方法で円周率を計算したほか、珠算によって平方根や立方根を求めたこと、九進法と十進法の換算を行ったことが挙げられる。本研究では、『算学新説』・『嘉量算経』・『円方句股図解』を分析し、彼の数学理論の科学史的評価を紹介し、続いて、彼の数学理論の中にいかなる経学的議論が含まれ、他の学術と連関しているかを明らかにした。また、朱載イクが晩年、「数」を通して度量衡への興味を深めていったことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「中国儒学における楽の思想の概説的整理」については、概ね著書を出版するための原稿がまとまっており、関連する書籍やCD・DVD、楽器などの収集も順調である。日本で購入できるものが少ないため、完全ではないが、次年度はなるべく中国でも収集を行い、継続して取り組みたい。また、勤務校での次年度の講義も利用し、さらに原稿をさらに詳細にまとめる予定である。 何トウの『陰陽管見』の分析については、日本中国学会で口頭発表を行い、論文をまとめた。2013年5月に、『中国哲学研究』(東京大学中国哲学研究会)に投稿する予定である。 朱載イクの数学理論の分析については、概ね論文が完成しているが、数学関連の文献をもう少し収集し、論文の精度を高める必要がある。また、科学史や音楽史での学会で発表する予定だったが、スケジュールの調整ができなかったため、次年度に行いたい。 また当初、朱載イク『楽学新説』の分析を行う予定だったが、朱載イクの数学論と関連させて論じたため、今後『楽学新説』を個別に研究するかは未定である。論文を発表するならば、上記の数学論の研究や、ほかの研究と合わせて発表する可能性が高い。 古琴に関する基礎的知識と技能の習得は、現段階では、古琴やその楽譜類を購入してはいるが、まだ基礎的な技能が習得できていない。引き続き、古琴の演奏法や理論を専門的に研究している方と連絡を取りながら、古琴や楽譜の分析について助言を受ける予定である。また、古琴の理論書や楽譜なども収集する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
中国儒学における楽の思想の概説的整理については、この内容をさらにわかりやすくまとめ、2014年にブックレットとして出版する予定である(松下幸之助国際財団より出版助成を受ける予定)。特に、大学における中国音楽史の教材として用いることを目指しているので、勤務校の講義において、学生からも意見も取り入れながら、執筆したい。具体的には2013年9月に、出版社との話し合いを始める予定である。この概説的整理をもとに、朱載イクとの比較を行いたい。 何トウの『陰陽管見』については、ひとまず論文にまとめたが、今後はさらに同時代の思想家と比較しながら分析を深めていく予定である。朱載イクが『楽律全書』の中で参考文献として挙げ、積極的に参照した人物たち、具体的には、湛若水の『聖学格物通』・『二礼経伝測』、王廷相の「律呂論」、季本の『楽律纂要』、韓邦奇の『苑洛志楽』などもとりあげながら、朱載イクへの影響を多角的に論じる。 朱載イクの数学理論の分析については、国内あるいは中国での科学史あるいは音楽史の学会で発表し、専門家と意見の交換を行った上で、しかるべき雑誌に投稿したいと考えている。朱載イクの数学論のうち、特に重要になる三平方の定理や円周率の計算については、もう一度中国数学史を詳細に検討し、朱載イクの理論の位置づけを考え直す必要がある。今年度は、朱載イクの数学論を思想史的に評価することがメインとなったが、もう少し科学史的にどのように評価すべきかを考察したい。
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