2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24820056
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
福山 佑子 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (40633425)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 西洋史 / 古代ローマ史 |
Research Abstract |
今年度は、まず国内に所蔵されている碑文集成(Corpus Inscriptionum Latinarum, L’Annee epigraphique等)を精読し、断罪された皇帝の氏名が碑文から削除されている事例の収集を行った。この文献調査で収集した事例のうち、まずドミティアヌスの事例の先駆例となるカリグラの事例をまとめ、時系列に整理し、政治背景とあわせて考察を行った。その結果、当該時期の皇帝に対するダムナティオ・メモリアエが、制度として機能したというよりも、次代の皇帝が漸次的にカリグラに対する攻撃的な側面をあらわにしたことによる副次的な産物であったことを明らかにした。これは、3月に早稲田大学ヨーロッパ文明史研究所から出版された『ヨーロッパ・「共生」の政治文化史』において、「クラウディウスによる『共生』の模索とカリグラの記憶」にまとめている。このカリグラの事例におけるクラウディウスの主導的役割は、ドミティアヌスの事例の文献史料の叙述で元老院が主導的な役割を果たしたとされているのとは対照的であり、今後、皇帝と元老院との関係の変化を考察していく上で出発点としていく。 この基礎研究を踏まえ、春季休業期間中にはイギリスとフランスにおいて文献調査、史料撮影を行った。文献調査ではロンドンのInstitute of Classical Studies、パリのBibliotheque Gernet-Glotzを利用した。また、オックスフォード大学で開催されたローマ考古学のセミナー、ロンドン大学で開催されたローマ美術のセミナーに参加し、近年の研究についての知見を得た。また、ローマ皇帝関連の彫像と碑文が多く収蔵されている、大英博物館、ルーブル美術館において、ドミティアヌスや前後の皇帝に関連する収蔵品の調査も行った。その成果は、次年度の研究で活用する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ドミティアヌスからネルウァへの帝位継承を検討するために、今年度はその先例となるカリグラからクラウディウスへの帝位継承におけるカリグラのメモリアの処遇をとりあげた。これは、以降の死後に断罪された皇帝に対するダムナティオ・メモリアエの先駆例であり、カリグラのメモリアに対する攻撃の政治背景の考察を行うことは、本研究の課題であるドミティアヌスの「記憶」と帝位継承がどのようにして行われるに至ったのかを探る手がかりとなるものである。このカリグラの事例における検討の結果、元老院がカリグラのメモリアを攻撃しようとした際、それを阻止したとされるクラウディウスが、皇帝即位後に自らの権力基盤が確立されるにつれ、彼自身がカリグラを悪しき人物として攻撃していた姿が、碑文史料と文献史料から明らかとなった。すなわち、当該時期の皇帝に対するダムナティオ・メモリアエが、元老院が主導する制度として機能したというよりも、次代の皇帝が漸次的にカリグラに対する攻撃的な側面をあらわにしたことによる副次的な産物であったのである。 これは、「悪しき皇帝」をどのように処遇するかという問題と、以降の帝位継承を検討する上での基盤となるものである。本研究では今後、このカリグラの事例以降の、ネロ、69年の皇帝たちに対する経験を経て、ドミティアヌスに対するダムナティオ・メモリアエが行われるまでの変遷を辿り、皇帝の位置づけの変化、皇帝、元老院、軍などの諸派閥の関係の変化の考察を行うが、このカリグラに対する事例を出発点として活用する予定である。すなわち、初年度で目標としていた先駆例とその政治背景の考察は、充分に達成できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、紀元後96年の「悪帝」ドミティアヌスの暗殺からネルウァの即位に至る帝位継承を検討の対象としている。今後はこれまでのカリグラに対するダムナティオ・メモリアエの検討を踏まえながら、まず69年の内乱における帝位継承とダムナティオ・メモリアエによる皇帝のメモリアの破壊行為についての検討を行い、続いて96年のドミティアヌスからネルウァへの帝位継承について検討する予定である。 碑文記録における氏名抹消の有無を、前帝との関係性を示す1つの指標と定めることが本研究の特色であり、次年度もまず碑文集成(Corpus Inscriptionum Latinarum, L’Annee epigraphique等)における事例収集を継続して行う。カリグラについての事例研究では、碑文の収集と、時系列、地域別での収集碑文の整理が、ダムナティオ・メモリアエの背景の解明において有益であったため、引き続きこの手法で検討をすすめる。また、今年度も海外での史料調査、文献調査を行う予定であり、昨年度の海外調査の成果もあわせながら、都市空間や地理分布も考慮にいれて、皇帝の記録・記憶の破壊行為の具体像を提示したいと考えている。 研究成果の発表として、現時点では、10月17~20日に北京で開催される第二回日韓中西洋古代史シンポジウムでの報告が決まっており、英語での研究成果の発表を行うことになっている。また、日本語での論文執筆も予定しており、積極的に研究成果を公表していく予定である。
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Research Products
(1 results)