2012 Fiscal Year Annual Research Report
享保期の江戸俳壇の研究―沾徳・沾洲・不角を中心に―
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24820058
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Research Institution | Tsurumi University |
Principal Investigator |
牧 藍子 鶴見大学, 文学部, 講師 (20633788)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 国文学 / 俳諧 |
Research Abstract |
平成二十四年度は、沾徳・沾洲・不角らの未翻刻俳諧撰集、歳旦帖、点巻・点帖類について、天理大学附属天理図書館、柿衞文庫、石水博物館等で実地調査と資料収集を行った。翻刻の存在する資料に関しては、『関東俳諧叢書』所収の沾徳・沾洲関係の作品の調査をすすめた。また、享保期の不角の俳諧活動について分析し、第六十四回俳文学会全国大会にて学会発表を行った。 俳文学会全国大会で発表を行ったことにより、従来未紹介であった月次句集等の関係資料を調査する機会を得たので、その調査結果をふまえて、享保期の不角の俳諧活動に関する論文「享保期の不角之月次興行の性格」を執筆した(『国語と国文学』2013年9月号に掲載が確定している)。不角は元禄期の競技性の強い月次発句興行から、富裕な地方作者層を主たる相手とした月次興行へと活動方針を転換したが、元禄期と享保期の月次の作風はいずれも通俗的かつ平明であり、作風の観点からはこの間の不角の俳諧に質的な断絶を認めることはできなかった。不角の俳壇経営における方針転換は、不角の俳諧の享受者層の変化によるところが大きく、当該論文では元禄期に江戸で活躍した前句付派が享保期に展開した多様な俳諧活動のあり方の一端を具体的に提示し得たと考える。 平成二十四年度の調査によって、享保期の不角の俳諧活動の多様性は、その享受者層の動向を反映していることが明らかになった。これを考慮するとき、従来作風や門流の違いという観点からとらえられてきた沾徳・沾洲・不角らの俳諧の差異について、享受者層のあり方を視野にとらえ直すことの重要性がより一層はっきりした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
沾徳・沾洲・不角関係の資料の調査・収集が予定通りすすみ、その成果について学会発表し、学術論文としてまとめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成二十四年度に引き続き、沾徳・沾洲・不角らの批点資料等の収集を行いつつ、『関東俳諧叢書』に収められた「関東俳諧年表」や、白石悌三氏・安田吉人氏による年譜を手がかりとして、彼らの一座する連句を収録した俳諧撰集を収集・調査する。また沾洲・不角に関しては、積極的に実地調査を行い、新資料の発見に努める。 以上の資料について分析を行い、沾徳の「洒落風」、沾洲の「比喩俳諧」、不角の「化鳥風」の特徴を整理するとともに、彼らの俳諧の享受者層の動向をまとめる。研究計画においては、享保期の江戸俳壇の見取り図として、其角ら都市俳諧の流れを汲む沾徳・沾洲一派と調和・不角ら貞門系前句付派の対立関係に重点をおいていたが、平成二十四年度の調査を通じて、そうした対立意識は享受者側にはあまりなかった可能性が考えられてきたので、この点については方向を修正したい。最後に、二年間の調査のまとめとして、沾徳・沾洲・不角らの交友関係や、俳壇経営の方法、勢力地盤等を整理し、沾徳・沾洲・不角らの俳風と、その俳諧の享受者層の性格との関連性について考察する。 今年度、特に注目したいのが、不角が相手とした作者たちである。不角は江戸在住で、歳旦帖にも江戸の作者が登場しているものの、元禄期を通じて地方に勢力地盤を築いている。不角の歳旦帖に名を連ねる江戸作者たちが、参勤交代で江戸に出てきた地方藩士たちであるのか、あるいは元禄期の不角前句付の延長上に不角の門弟となった江戸の雑俳作者たちであるのか等、いろいろな可能性を想定しうる。不角の俳諧活動の多様性の問題とあわせて考察する予定である。
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Research Products
(2 results)