2012 Fiscal Year Annual Research Report
文化プロテスタンティズムに対する第一次世界大戦の影響についての思想史的研究
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24820072
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Research Institution | Numazu National College of Technology |
Principal Investigator |
小柳 敦史 沼津工業高等専門学校, 教養科, 助教 (60635308)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | キリスト教思想史 / 文化プロテスタンティズム / 第一次世界大戦 / 前衛/後衛 / エルンスト・トレルチ / ヴィルヘルム・ブセット / アドルフ・フォン・ハルナック |
Research Abstract |
本研究は、ドイツの「文化プロテスタンティズム」と呼ばれるリベラルな神学者たちに第一次世界大戦が及ぼした影響を思想史的意義の観点から明らかにしようとするものである。第一次世界大戦以前から活躍していた旧世代の神学者と、戦争後の思想界に新たに登場してくる新世代の神学者それぞれが、第一次世界大戦の経験とその後の社会の構想をどのように語っているかを、単純な世代論に終始することなく描き出すことを目指している。 研究初年度である本年度は、主として旧世代の神学者について考察を進めた。計画ではエルンスト・トレルチとアドルフ・フォン・ハルナックの二名を対象とする予定であったが、調査を進める中でヴィルヘルム・ブセットを分析対象に加えることとした。ブセットはトレルチと同じく宗教史学派を代表する神学者であるが、トレルチやハルナックとは異なり開戦後のかなり早い時期から戦争に反対する見解を公にしており、旧世代のリベラルな神学者たちの意見の多様性を示す好例と思われたからである。ブセットについても資料の収集を進め、現在分析を進めている。 これまでの先行研究では世代間の断絶を強調するあまり、旧世代の神学者はおしなべて(少なくとも開戦当初は)戦争支持にまわり、それに対して新世代が不満を持ったという構図が設定されている。しかしブセットの立場を分析することで、その枠組みでは捉えきれない思想史の連続性に目を向けることができるように思われる。また、専門研究としても、若きトレルチとブセットの関係についての比較研究はなされてきたものの、第一次世界大戦中・大戦後の晩年の両者の研究はなされていないため、文化プロテスタンティズムの実態に迫る新たな試みとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
10月末の研究費の交付後ただちに研究遂行上必要な文献の発注を進めたが、購入手続きに予想外の時間を要し、文献が入手できたのが1月になってしまった。このため初年次にとりまとめる予定であった、旧世代の神学者の言説について論文化できていない。また、計画通り3月にはミュンヘン大学神学部を訪れ文献調査と研究内容についてのディスカッションを行ったが、ヴァイマール期のプロテスタント思想の専門家であるクリストファーゼン教授が異動直後で、二年目の研究を進めるための助言を得ることができなかった。以上より、当初の研究の目的および研究計画からやや遅れていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
現在分析を進めているブセットを含め、旧世代の神学者たちの言説についての研究成果を速やかに論文化し『ドイツ研究』か『宗教研究』に投稿する。その後新世代の神学者についての考察に移る。すでに入手できている文献から分析を進め、随時必要な文献を取り寄せ、夏を目標にティリッヒとボルンハウゼンについて考察をまとめる。その成果をもって前年度会えなかったクリストファーゼン教授をドイツのヴィッテンベルクに訪ね、最新の研究動向を踏まえて本研究の途中経過について議論を交わす。この議論を受けて新世代の神学者についての研究成果をとりまとめたのち、本研究の特色である「前衛/後衛」という視点の有効性と意義を検証する。 なお、昨年度中に提出予定であった報告者の課程博士論文に、本研究計画の成果も組み込むことでより有意義なものとなると判断されたため、本研究全体の成果は課程博士論文の一部として公開されることになる。
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