2012 Fiscal Year Annual Research Report
戦間期オランダにおけるカトリック・サブカルチャーの意志集約機能
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24830018
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
作内 由子 千葉大学, 法経学部, 助教 (60631413)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | ヨーロッパ政治史 / オランダ政治 / 比較政治 / キリスト教民主主義 |
Research Abstract |
交付を受けた平成24年度後半は、同年度前半の成果を以下の通り公表(準備)することに努めた。 作内由子「戦間期オランダにおける議会外政権の受容と実態」世界政治研究会、東京大学山上会館、2013年1月、作内由子「戦間期オランダにおける議会外政権の受容と実態」『千葉大学法学論集』第27巻第4号、pp. 100-130、(2013、近刊) ここではカトリック・サブカルチャー内部の勢力がイデオロギーをめぐって争う前のオランダの政治体制を分析した。議会外政権は、いかなる下院議員団からも信任を受けていない政権をさす。戦間期オランダの議会外政権は、実態として下院にカトリック党を含む潜在的な多数派を擁していたため安定していた。この安定は潜在的な与党が政府の政策形成に影響力を行使するのが困難であったことによって担保されていた。政策形成への影響を犠牲にしても議会外政権を選択するメリットは、異なる原則を掲げる政党との連合を避け、政府の政策に責任を負わないことによって選挙での得票最大化を図ることにあった。党は明確な政策的ポジショニングを避け、サブカルチャー内部からの反発を避けると同時に、カトリック・サブカルチャーに内在していた多様性を黙認し、包摂に努めた。 11月にオランダ(アムステルダム、デン・ハーグ、マーストリヒト、ハールレム)で一か月間史料収集をした。ここではカトリック・サブカルチャーの諸勢力とカトリック政党RKSPとの関連を示す史料を中心に収集した。年度内にこれらの史料の分析を進めていった。これらに関しては、平成25年度中の公表を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・戦間期オランダのカトリック・サブカルチャーが、なぜ1930年代になって教義をめぐる競争を始めたのか、という疑問が1920年代の政治制度の分析によって解消された点は大きな進展であった。周辺諸国ではこのようなカトリック・サブカルチャー内の競争が生じなかった国もあり、これによって比較の視座が開けたといえる。 ・史料収集については、当初想定していた史料、とりわけ司教団会議の政治に対するかかわりについて、思ったほどの史料が残っていないことが判明し、その意味では予定の若干の変更が余儀なくされた。それとは対照的に、カトリック党の地方組織と党中央との関係の変遷が明確になる史料を偶々発見することができたのは大きな成果であった。反議会主義勢力の台頭により党内が動揺する中で、集権的な党組織改革の過程がいかにして可能になったのかがわかれば大きな意味を持つ。 ・成果の公表はほぼ予定通り進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
・予想外にカトリック党の党中央と地方組織との関係が明らかになりそうなので、当初考えていた言説空間の覇権争いにとどまらず、より構造的な議論が可能になりそうである。カトリック党は、言説のレベルで他のカトリック政治勢力にカトリック教義の解釈において優越しようと試みたのみならず、並行して行った組織化によってカトリック人民の政治的掌握に努めた。これは党による1920年代のサブカルチャーを放任する態度から浸透しようという試みへの転換である。平成24年度に行った1920年代の政治制度分析を踏まえ、このような転換が起きた過程を丁寧に分析すると同時に、なぜ浸透しえたのかを検討する必要があろう。 ・今年度の目標は何にも優先して博士論文の完成である。おそらく今年度は昨年度後半の成果の公表にとどまり、それ以上の公表はとりわけ論文という形では困難だと考えているが、交付が切れる来年度以降にそれは持ち越すことになりそうである。
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