2012 Fiscal Year Annual Research Report
イギリスにおける大学の「質保証」に関する歴史的研究
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24830038
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
山崎 智子 福井大学, 高等教育推進センター, 特命助教 (20636550)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 質保証 / イギリス大学史 / 高等教育政策 / 大学評価 |
Research Abstract |
本研究課題の1年目である平成24年度は、以下の3点を主に行った。 (1)先行研究の整理・検討:まず、質保証や大学評価に関する先行研究を概観し、質保証に関する理論研究の動向を把握した。同時に、本研究課題の分析対象である市民大学(バーミンガム、マンチェスター、リヴァプール、リーズ、シェフィールド、ブリストル)の歴史に関する文献を検討し、各大学の設立の経緯やその地域特性、教育内容の傾向(教養主義と技術・専門主義のバランス)はいかなるものであったかについて把握した。 (2)英国にて資料収集:英国での現地調査で、1900年から1919年までの市民大学のカレンダーと公文書を収集した。大学カレンダーについては、特に学位試験の変遷を中心に、カリキュラム編成や実際の試験問題等の閲覧・複写を行った。また、公文書館では、当時の市民大学に関連する政府文書(大蔵省・枢密院・教育院)を閲覧・複写した。 (3)中央政府の大学政策の分析:海外調査で収集した政府文書を分析した結果、以下の点が明らかとなった。まず、大学補助金諮問委員会の文書からは、1900年代でも大学補助金はアーツアンドサイエンス重視であったことがわかる。そこでは、技術・専門教育は否定されないまでも評価の対象外であった。一方、市民大学設立に係る枢密院文書からは、1900年代に市民カレッジが大学へと昇格して学位授与権を獲得したために、技術・専門教育科目も大学の学位カリキュラムに入れることが可能となったことがわかる。このことから、市民大学の技術・専門主義への「回帰」は、市民カレッジが大学へと昇格したことと深く関わっていることが推測できる。この点については、平成25年度の課題として検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、先行研究の整理・分析については、高等教育に関する主要な学会誌・雑誌や6つの市民大学の大学史の閲覧を終えたので、おおむね順調に進んでいるといえる。ただし、現段階では網羅的な閲覧にとどまっているため、今後一次資料の分析を行っていくうえで明らかとなるより詳細な論点について、追加で資料を閲覧する必要が出てくると考えられる。また、一次資料の収集に関しては、公文書館所蔵の公文書については、収集がほぼ完了している。大学カレンダーについては、6校中2校の資料収集は完了している。残りの2校の資料は一部年代分の複写が未完了のため、平成25年度に予定している追加の海外調査で行う予定である。 また、当時の中央政府の大学政策の分析については、当初の予定通り大学補助金に関する諮問委員会と大学設立勅許状の一次資料の分析は一通り完了したため、おおむね順調に進んでいるといえる。分析から、大学設立勅許状の学位に関する条文の重要性が明らかとなった。平成25年度は、引き続き、この点についてのさらなる分析を行う予定である。そして、大学補助金に関する公文書については、これまでの分析からは技術主義への「回帰」は確認できなかったが、市民カレッジの大学昇格が大学補助金政策にも何らかの変化をもたらしたのか否かについて、より詳細に検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成24年度イギリス調査で収集した一次資料の分析を主に行う予定である。まずは、市民大学のカレンダーのデータを用いて、学位の種類の変遷を明らかにする。その際に、全市民大学(6校)の比較を行う。また、一つの大学を事例として取り上げ、入学試験科目の変遷、カリキュラムの変遷、そして学位試験科目についても分析を行う予定である。現段階では、リヴァプール大学について扱う予定であるが、この大学を取り上げる理由は、イングランドの大学の中で一番最初に建築学(当時は技術教育科目とみなされていた)を大学のカリキュラムに導入したといわれているためである。 一通りの分析を終えた後で、英国の高等教育史研究者であるセントラル・ランカシャー大学(University of Central Lancashire)のキース・ヴァーノン博士(Dr. Keith Vernon)にインタビューを実施し、当時のイングランドにおける教養主義と技術・専門主義の相克について、また、質保証の在り方について、意見交換する予定である。また、最終的には研究成果を学会誌に投稿することを予定しているが、その前段階として平成25年度中に国内学会にて研究発表を行い、その後の論文執筆に役立てる予定である。
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