2012 Fiscal Year Annual Research Report
行政行為に対する議会拒否権の憲法学的考察―権力分立論の観点から
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24830041
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
御幸 聖樹 京都大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 助教 (20634009)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 議会拒否権 |
Research Abstract |
行政行為に対する議会拒否権の日本への導入の可否を検討するのが本研究の目的であり、その合憲性の検討として、まず、行政行為に対する議会拒否権の性質についてアメリカ及びイギリスの文献を調査した。 アメリカについては、裁決に対する議会拒否権を違憲としたチャダ判決(Immigration and Naturalization Service v. Chadha,462U.S.919(1983))法廷意見が当該議会拒否権を立法権と判断していることについて検討を行った。そして、同法廷意見の論理は受け容れがたく、結局、裁決に対する議会拒否権の性質を立法権と判断している理由は、当該事件で問題となった領域がそもそもprivate actが認められてきた領域であったからではないかという結論に(今のところであるが)至っている。そのため、行政行為に対する議会拒否権の性質につき、アメリカでは一般的に立法権と考えられていると言えるかどうかはなお調査・検討を行う必要がある。 イギリスについては、国民の法的地位を直接に決定する議会拒否権が同国にはあり、その議会拒否権が委任命令に対する議会拒否権と別個の手続を採用しているのはなぜか、その手続の差異には、国民の法的地位を直接に決定する議会拒否権と委任命令に対する議会拒否権とが異なる性質のものであるという認識があるのではないかという観点から、国民の法的地位を直接に決定する議会拒否権についての調査を行った。しかし、調査を行うにつれ、イギリスの「国民の法的地位を直接に決定する議会拒否権」という仕組みは、そもそも「議会拒否権」と評価できないのではないかと考えられるに至った。そのため、イギリスについては、行政行為に対する議会拒否権の性質がどのように考えられているかを法制度から考察することはできないのではないかと考えるに至った。 以上が、当該年度の研究実績である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
まず、private actを巡る文献につき、調査が難航している。すなわち、アメリカ及びイギリスでは、private actによって特定人の権利・義務又は法律関係を具体的に決定する権限が議会に認められているところ、そのように法律に一般性を必ずしも要求しないことは歴史的経緯以外の理由があるかどうかを調査している。しかし、現在のところ、適当な文献は見つかっておらず、今後も調査を継続する必要がある。 次に、行政行為に対する議会拒否権につき、行政行為という法形式で最終的な法効果が生じる点についても、他の憲法上の機関の権限を侵害するものではないかという新たな考察対象が生じた。すなわち、行政行為に対する議会拒否権は、法の執行を行う点で議会が立法権と行政権の両者を掌握するという権力分立上許容されない事態を招き、行政権侵害ではないかとの問題点は従前から考察対象としていたが、さらに、行政行為に対する議会拒否権行使手続を経て最終的に行政行為という法形式で法効果が生じるのであれば、法形式上は「行政行為」であるにも関わらず実質的には議会が「行政行為」を行っていることになる。このような、議会がその行為形式として「行政行為」を行うという点は、「議会が法の執行を行うこと」に解消しきれない問題点があると考えられるに至った。そのため、研究開始当初は予想していなかったこのような問題点についても調査・検討を要することとなった。 以上が、本研究がやや遅れていると自己評価を行った理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、private actを巡る文献の調査についてであるが、積極的に海外に文献調査に赴くことにする。今までの調査は、日本において入手可能な文献(もっとも、それらは特にアメリカに関してはかなりの分量になる)を中心に調査を行っていたが、今後は積極的に海外に赴くことによって調査を行う予定である。 次に、行政行為に対する議会拒否権が他の憲法上の機関の権限を侵害しないかどうかという問題については、権力分立論に関しての様々な文献を調査・検討していく予定である。具体的には、権力分立論の歴史的発展を記したM.J.C. Vile, Constitutionalism and the Separation of Powers(2nd ed)(Indianapolis, Liberty Fund 1998)を中心に、各国における権力分立制度の多様さを確認するとともに、現代における権力分立論を検討していく予定である。
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