2012 Fiscal Year Annual Research Report
複雑な景気循環現象が発生するメカニズムの数理的解明とその応用
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24830044
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 健治 京都大学, 経済研究所, 研究員 (60634227)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 非線形経済動学 / 景気循環 / カオス理論 |
Research Abstract |
本研究では経済に内在する非線形性の帰結として生じる複雑なビジネスサイクルについて研究を行なっている.非線形性を起こす原因の特定と,どの程度の非線形性によって経済に複雑な振舞いが発生するかの2点が主な関心の対象であり,本年度の実績は後者についての研究が主要なものである, 矢野誠・京都大学教授との共同研究で得られた十分条件を応用し,2部門2要素モデルにおいて,資本減耗がゆるやかなケースで最適なビジネスサイクルが起こりえることを示した.この成果をまとめた論文 "Optimal ergodic chaos under slow capital depreciation" (矢野誠教授との共著)が International Journal of Economic Theory に掲載された.このモデルは一例であるが,非線形性に関する条件を弱めることでより広いクラスの経済モデルが同様の特徴を持つ可能性を示せた点で意義が大きい.このモデルをさらに発展させた例として,2部門3要素のモデルに対する応用も行い,最適経路におけるビジネスサイクルの特徴付けを行っている.生産要素の数を増やすことで非線形性の特徴が変わるものの,複雑なビジネスサイクルが起こるケースがあることが分かっている.部門間の要素集約度の関係によってビジネスサイクルの安定性・不安定性,存在・不在への影響をより詳細に追跡することができるようになり,2部門モデルに対する理解を大きく発展させることができたと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
学術論文誌への掲載が1件,研究報告が2件と実績の蓄積は概ね順調に進展している.申請書において挙げた2つのテーマ (1) 多部門3要素モデルの研究, (2) 不連続性についての研究 と予備的なテーマ (3) Matsuyama-Yano-Kanehara モデルの研究について, (1) は順調に進展しており現在論文を準備している (2) は検討中であるが進捗は芳しいとはいえない.申請書に記載の通り25年度にかけてじっくり取り組んでいく計画である. (3) については検討することができなかったが,矢野誠・京都大学教授と古川雄一・中京大学准教授との新しい共同研究として R&Dモデルにおけるビジネスサイクルの研究を始めることができ,こちらが順調に進展しており研究の成果が近く期待できる.また,この応用理論モデルにおいてはカリブレーションの手法を適用することが可能であると考えており,25年度の研究計画に必要な準備ができたと捉えている.以上より「おおむね順調に進展している」とする
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Strategy for Future Research Activity |
概ね申請書の通りに研究を進めるとともに,前年度で得られた研究成果の学術論文誌での発表に向けて準備を進める.また,「現在までの達成度」の項に記載した矢野・古川両先生との新しい共同研究のモデルに対しては一層の理論的な分析,さらに数量的な分析を行うことで,理論・実証の両面からR&Dモデルのビジネスサイクルを検討する. 申請書(3-4頁, 平成25年度研究計画)に記載した非最小位相系(時間遅れ)の役割に関する研究について文献調査を行った結果,新古典派成長モデルに時間遅れを導入した分析が Szidarovski とMatsumoto によって2010年ごろから行われていることが分かった.時間遅れの程度をコントロールすることでビジネスサイクルの存在・不在が変化する構造が示されており重要な研究である.本研究課題は最適モデルの分析が目的であり,最適行動の帰結として時間遅れが起こる構造を見つけることを目的としているが,彼らの結果を参考にすることで有益なアイデア,分析手法へのヒントが得られるものと考えている.特にR&Dのプロセスに組み込まれている審査期間,保護期間という時間構造がこのような時間遅れを生じさせる可能性を検討し,矢野・古川両先生とのモデル分析との関連についても分析を進めていく.
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Research Products
(4 results)