2012 Fiscal Year Annual Research Report
人形遣いのわざ伝承場面における身体的相互行為を手がかりとした「学び」モデルの構築
Project/Area Number |
24830047
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
奥井 遼 京都大学, こころの未来研究センター, 研究員 (10636054)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 教育学 / わざ / 身体的相互行為 |
Research Abstract |
本研究の目的は、身体を使った「わざ」の伝承場面の観察・分析を通して、近代教育において捉えられてきた知識伝達のあり方を根本的に見直し、新たな「学び」モデルを構築することにある。一年目に当たる平成24年度は、淡路人形座への集中的なフィールド調査を行うことによって、データを豊富に蓄積することができた上に、学会発表および学術雑誌掲載の機会を多く得たことにより、当初の計画以上に研究を進展させることができたといえる。 フィールド調査としては、研究実施計画の通り、淡路人形座における二つわざの伝承事例を対象として、平成24年11月、平成25年1月、2月の期間に集中的に行った。とりわけ平成24年の11月と平成25年の1月の調査では、公演事業にむけた稽古場面に立ち会うことができ、学びを成立させている身体的相互行為の働きを明らかにするための豊富なデータを蓄積することができた。本研究の目的である「相互身体的知識伝達モデル」の構築のために重要な分析材料を獲得することができた。 具体的な成果としては、6月の国際学会、9月の国内学会発表のほか、2月の招待講演、6月、11月、3月の研究会発表など、研究成果の公表を積極的に行うことができた。まとまった成果として、二本の査読つき論文、二本の英語論文を刊行し、本研究の成果を広く学術界、一般社会に公表した。 今後は、フィールド調査で得られたデータの分析を行うとともに、さらなるデータの蓄積を目指して調査を継続し、その上で、これまでの理論的考察と結びつけることによって、「学び」を再構築するための足がかりを固め、その上で、これらの成果を精緻化させることによって、京都大学での博士学位論文として結実させていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の1年目は、人形遣いのわざ伝承場面に対する参与観察、映像記録およびインタビューの量・質ともに非常に充実した成果を上げることができた。とりわけ、調査地である淡路人形座へと足繁く通ったために、インフォーマントである人形遣いたちとの良好な関係を築くことができ、平成25年2月の特別公演に向けた稽古においては集中的にフィールド調査を遂行できた。調査を通して得た豊富なデータを分析することによって、本研究の目的である「相互身体的学びモデル」を説得的に構築することが期待される。 他方、課題としては、三原中学校での「郷土部」の部活動における稽古場面のデータ収集がやや体系を欠いたものとなった点が挙げられる。淡路人形座に対する集中的な調査を継続しつつ、翌年度は、中学校の公演にも会わせた調査を遂行していくことを課題としたい。 本年度の成果としての業績は十二分であった。メルロ=ポンティを軸にすえた教育理論に関する査読つき論文(『教育哲学研究』107号、2013年3月受理)、淡路人形座の稽古場面の分析に関する査読つき論文(『ホリスティック教育研究』16号、2013年3月刊行)、その他人形遣いの身体技法に関する英語論文(『Cuerpos y Folklore(s): Herencias, construcciones y performancias』2012年11月刊行)、メルロ=ポンティの言語論に関する英語論文を一本(『臨床教育人間学』12号、2013年5月刊行予定)を発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、わざの伝達場面における相互身体的知識伝達モデルの構築に向けて、(1)調査の継続、(2)理論的整備、(3)国際会議への積極的な参加の三つを方策とする。 (1)調査の継続について。淡路人形座における公演事業、および三原中学校の「郷土部」の取り組みにおけるわざの伝承事例を対象としてフィールド調査を継続していく。これまでに課題をふまえて、とくに「郷土部」におけるわざ習得場面の観察に力点を置き、人形遣いたちが教え手として振る舞う場面のデータを収集していく。 (2)理論的整備について。フィールド調査のデータに対して、ビデオ・ICレコーダーを用いた会話分析、動作解析を試みることによって、身体的相互行為空間の記述を試みていく。その方法として、本研究では現象学的手法を用いる。現象学は、当人の認識に先立って身体が獲得している雑多な意味を把握し、分析することを可能にする視点である。その手法によって、学び手と教え手との関係構造を決定している身体動作ならびに行為関係を記述することによって、学びの場面をいきいきと捉え直すことが可能となる。 (3)国際会議への積極的な出席について。三つの国際会議(ドイツ・マインツ大学、4月、台湾・台北国立芸術大学、5月、およびオランダ・ユトレヒト大学、8月)に出席し、研究成果を発表することで、海外における先端研究と交流し、国際的な視野で研鑽を積むことを目指していく。とりわけ、8月のユトレヒトでの研修は、教育や看護等の事象に対する現象学的分析を主眼とするものであるため、本研究の遂行と今後の展開を図るためにも重要な場となることが予想される。 これらの成果をもとに、海外の学術雑誌への投稿、および京都大学での博士学位取得へと結実させることを最大の目標に据える。
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