2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24830048
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
西田 喜平次 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任研究員 (50631652)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 医療経済学 / 応用経済学 / 空間統計 / 立地論 |
Research Abstract |
(1)申請時の研究計画通り, 複数の医師・歯科医師へのヒアリングを行った結果, 白内障や虫垂炎などの疾病や歯科診療などでは, 医療施設間の経営競争が激しくなると, 医学的に必要な水準以上の診療行為が行われる可能性があるという仮説を立てた.これを検証するために, 診療所の立地情報と, ある特定の疾病の治療に対して患者一人当たりに提示された診療点数が一組になったデータと, その治療を受けた患者の住所情報データが得られたと仮定して、空間自己回帰モデルを用いた統計解析モデルを作成した. (2)(1)を実行するために必要なデータは, 個人情報保護の観点から, 診療所の立地情報が秘匿されていることが多い.立地情報が判明したとしても, 市区町村単位までしか分からないような, 制限のかかったデータに対して空間自己回帰モデルを用いた統計解析手法を適用した場合, どういった結果が得られるか, 研究を行う必要性も同時に発生した.こうした問題の場合, ある市区町村内に存在する診療所の座標データは, 別途得られるはずなので, ある疾病に対する病院ごとの診療点数に関するデータが, 該当する市区町村内のどの病院から得られたデータであるのか, 推定する事が出来ることが望ましい.それを実現する一方法として, 空間従属性を表すモラン統計量が最も大きくなるように, 診療点数データを病院の立地点データに振り分ける事によって, ある種の推定が出来ると予想している.もちろん結果を公表する場合, 診療所の別個の情報が判明しないよう配慮しなければならない事は言うまでもない. (3)申請時の研究計画通り, 診療所の競争立地均衡を分析する経済モデル(西田・吉田2006)の拡張・精査を検討した. (4)(1)の観点から研究を行うにあたって必要となる事が予想される統計推定量(分散安定化ノンパラメトリック回帰推定量)の成果をまとめた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請時の研究計画通り, 医師・歯科医師へのヒアリングをこれまで行い, 診療所の立地密度と患者一人当たりに提示される診療密度との間にどういった関係が存在するか, 仮説を立てた。その仮説とは, 歯科医療や白内障, 虫垂炎などの疾病では, 医療施設間の経営競争が激しくなると, 医学的に必要な水準以上の診療行為が行われる可能性があるというものである.これを検証するために, 診療所の立地情報と, ある特定の疾病の治療に対して患者一人当たりに提示された診療点数が一組になったデータと, その治療を受けた患者の住所情報データを用いて, 空間自己回帰モデルを用いた統計解析を行う方針を立てた.しかしながら、診療所の点数に関するデータはレセプトデータを介した方法でしか入手する事がまず困難であるため, 厚生労働省が試験的に提供を開始しているナショナルデータベースへの申請を行っているが, 申請通過したとしても交付までに時間がかかる上に, 交付されたとしても個人情報保護の観点から, 患者の居住地情報や診療所の立地情報が秘匿される可能性が高い.現状では研究目的を遂行するためのデータ入手を複数のルートから試みており, 具体的なデータ解析を開始するまで時間を要している.また診療所の立地情報が解らないとしても, 診療所の立地情報が市区町村単位で分かるような, 制限のかかったデータに対して同様の統計解析手法を適用した場合, どういった結果が得られるか,研究を行う必要性も発生している. これら2点をクリアするために多くの時間を要してきたため, 研究の進捗は遅れている.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)診療所の空間的立地密度と, 医師が患者一人あたりに提供する診療密度にどういった関係(医師誘発需要仮説)があるのか, 空間統計学・空間計量経済学の手法を用いて検証を行う. 医師誘発需要仮説が正しいならば, 診療所の立地密度が高ければ, 患者一人あたりに提供される診療密度は高くなる事が予測される. 医師・歯科医師へのヒアリングの結果, 白内障や虫垂炎などの疾病や,歯科診療などでは, 提示した仮説が成り立つ可能性があることが判っている. 現在は仮説を検証に必要なデータの入手を行っている. (2)研究(1)で必要となるデータは患者や診療所の個人情報を含む可能性があるため, 患者や診療所が特定されない形で提供される可能性が高い. 例えば, 診療が行われた医療機関が所属する地理情報のうち, 市区町村までしか解らないような形でレセプト個票データが提供された場合, 特定疾病の治療に関する診療点数を医療機関ごとに集計したとしても, 診療所の地理情報と特定疾病の治療に関する診療点数の情報を, 対応づける事が出来ない. こういった類のデータしか入手できない場合, 診療所が所属する行政区分ごとに属性情報を集計してデータ解析を行うと, 診療所ごとの競争状態を抽出出来ない事が予測されるため, より細かい集計単位での解析が望ましい. こうした制約付きデータに対して, 既存の空間統計学・空間計量経済学的手法は, どのようなアプローチが出来るか, 手法的側面から研究を行う. (3)吉田・幸野(2007)は, 茨城県医師会名簿を用いて, 新規参入診療所がどういった要因で立地を決定するのか, 実証研究を行っている. 茨城県以外の地域で, 吉田・幸野(2007)とは異なる統計手法を用いて同様の分析を行う事によって, 診療所の新規参入立地要因の地域差を探る.
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