2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24830049
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松岡 孝恭 大阪大学, 国際公共政策研究科, 助教 (80634386)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 購買力平価仮説 / POSデータ / 物価指数 / 為替レート / 国際金融 |
Research Abstract |
平成24年度の研究では、日本と米国で同一の時点で販売された同一な財の価格を記録したPOSデータを用いて、購買力平価(PPP)仮説の検証に取り組んだ。 PPP仮説とは名目為替レートが国際的な物価水準の比(購買力平価)によって決定されるという為替レートの決定理論である。これまでのPPP仮説の検証では、物価水準を推定する際に使われるデータが必ずしも同質の財を比較しておらず、また観測頻度が低いといった問題が指摘されてきた。とくに、年次といった観測頻度の低いデータを使うことで、実質為替レートの定常性の検定における検出力不足や、調整速度に遅い方向にバイアスが生じるといった問題が生じ、PPP仮説の検証に深刻な影響をもたらすといわれる。定常性の検定や調整速度の推計結果は金融政策の有効性や経常収支の不均衡と関係するため重要な含意をもつ。したがって、データの観測頻度に関する制約を解消して短期的な調整メカニズムを検証することには大きな意義がある。 本研究では、詳細なレベルで財の同質性が保証でき、かつ財の価格と数量が高頻度で観測できるPOSデータの特徴を生かして、実質為替レートを計測する。その計測に必要な物価指数の推定には、連鎖指数に特有のバイアスを持たない指数算式を用いることで従来の問題の解決を試みている。 日本と米国で同一の時点で販売された同一な財の価格を記録したPOSデータ(1989年9月14日-1997年5月14日)から週次の実質為替レート(円/ドル)を求めたところ、同系列は急激な円高が進んだ時期でも、期間中の平均値のまわりで変動する傾向がみられた。実質為替レート系列の単位根検定を行った結果、実質為替レートの定常性は棄却され、本研究の観測期間においてPPP仮説が成立していないことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実質為替レートの定常性を検定した結果、現時点までの分析において観測期間中のPPP仮説の成立は支持できない結果となった。この結果はPPPからの乖離を生み出す要因をコントロールした上で得られたものである。すなわち、国際間で比較する財の高い同質性、同一時点での比較、高頻度データによる十分なサンプル数の確保,特売や関税率の調整といった理想的な条件を整えて仮説の検証ができている。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点で得られた結果は、定常性の仮説検定を行う際、調整速度に関して線形のモデルを前提(対立仮説)にして得られたものである。しかし、この線形性の仮定は調整速度の推定においてバイアスをもたらし、定常性の検定にも影響することが指摘されている。したがって次年度の研究では、調整過程が非線形となるモデルを使ってPPP仮説の検証と調整速度の推定を行う。また、より詳細な個別財レベルで内外価格差を計測し、その格差を生む要因を取り上げて解析を行う。
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