2012 Fiscal Year Annual Research Report
アクション・メソッドを用いたアルコール依存症リハビリテイションプログラムの開発
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24830060
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
古賀 聡 九州大学, 人間環境学研究科(研究院), 准教授 (00631269)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | アルコール依存症 / アクション・メソッド / 心理劇 / 臨床動作法 |
Research Abstract |
本研究の課題は、アルコール依存症者に対する臨床心理学的援助技法の開発と実践者養成プログラムの開発である。 <実績1>本年度はこれまでの臨床経験をもとにアルコール依存症心理教育テキストを作成した。依存症者の病識を得るための心理教育テキストや認知行動療法を取り入れたテキストを作成した。科学研究費補助金によって購入したパソコン、プロジェクターを用いて依存症者が視覚的にも理解しやすいようなテキストを作成した。作成されたテキストは臨床心理士や臨床心理学を学ぶ大学院生によって検討を行い洗練化を図った。 <実績2>アルコール依存症者に対するアクション・メソッド実践者の育成プログラムの開発を行った。アクション・メソッドとして、心理劇と臨床動作法を取り上げ研究した。心理劇については、西日本心理劇学会主催ワークショップにおいてスーパービジョンを行った。精神科病院勤務の臨床心理士が臨床活動として行っている心理劇セッションを再現し、その再現された劇に対してスーパービジョンを行った。同時に、ワークショップの参加者(初心者・未経験者)に対する依存症者への心理劇適用について解説を行った。つまり、アルコール依存症への臨床心理学的援助の経験に応じた養成プログラムを実施した。また、臨床心理士養成大学院の大学院生に対して心理劇を施行し、演者体験(患者体験)、補助自我体験(コ・セラピスト体験)、監督体験(リーダー体験)という3段階の体験研修プログラムについて検討を行った。 また臨床動作法については、大学生を対象として臨床動作法を実施し、ペアリラクセーションを通した被援助体験と援助者体験について調査を行った。 <実績3>臨床実践を事例研究論文として作成し学会誌(西日本心理劇学会、日本心理臨床学会)に投稿した。西日本心理劇学会に投稿した論文は採択され「心理劇研究」36巻(平成25年2月)に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アルコール依存症者を対象とした心理教育プログラムで用いるテキストが完成したことは、今後の研究を展開する上で非常に大きい成果である。本研究の目的は従来行われてきた心理教育にアクション・メソッドを統合した臨床心理学的援助プログラムを構築することである。認知的学習のみではアルコール依存症の治療は十分ではないというのが筆者の臨床的立場であるが、アルコール依存症者に対してアクション・メソッドを導入する際には、やはり治療的動機づけが重要だからである。したがって、心理教育テキストが完成し、その有効性が現場で臨床活動を行う臨床心理士等によって検証されたことは大きな研究の進展だと考えられる。 実践者養成プログラムの在り方について、対象者の経験に応じた養成プログラムの在り方について検証することができた点は大きい。ただし、アンケート(自由記述)などの質的データが中心であったので、今後はこれまでの質的データを土台とした質問紙の作成へと展開することが課題であると考えている。 アルコール依存症者を対象とした臨床実践が、事例研究論文としてまとめ投稿し、学会誌に原著論文として採択された点は大きな達成であると考えられる。否認性や治療抵抗の問題があり、臨床心理学的介入が極めて難しいとされるアルコール依存症者に対して、彼らの特性を配慮しより効果的に心理劇を導入する方法を臨床研究で示し、それが専門学会で評価された点は研究が順調に進展していることを示すと考えられる。 また、これまでのアルコール依存症者を対象とした臨床研究が、「心理臨床の学術上きわめて優秀であり、研究奨励に値する」と評価され、一般社団法人日本心理臨床学会の奨励賞を受賞することが、平成25年3月27日に通知を受けた。平成25年8月26日~28日に開催される第32回学術大会で奨励賞受賞講演を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策としては、これまでに作成・開発した心理教育テキスト、アルコール依存症の援助を目的とした心理劇や臨床動作法のプログラムを用いて、臨床実践研究を行うことである。さらに評価表を用いた効果研究を行う。 実践者養成プログラムについては、これまではワークショップやスーパービジョンを行った際の、対象者(セラピスト、臨床心理士養成大学院学生)のアンケートを中心に有効性を検討してきた。しかし、より効果的なアクションメソッドの実践を行うことができるセラピストを養成するプログラムを開発するためには、現在臨床活動を行っているセラピストに対して、その後の臨床活動に活かされているかどうかの検証が必要であると思われる。つまり縦断型の研究が必要であることが考えられた。 アルコール依存症者に対するアクション・メソッドの実践者養成プログラムの開発が本研究の大きな目的であったが、研究調査を行うなかで、臨床現場においてはアルコール依存症者の否認性や治療抵抗性に苦心し、より積極的な援助介入技法である心理劇や臨床動作法などの導入を考えることができないというセラピストが多数存在することが分かった。より積極的な援助技法の開発はこの領域の緊急的課題ではあるが、アルコール依存症臨床の現場のセラピストたちが抱える困惑・混乱・疲労についても焦点化することが必要であることが分かった。したがって、当初の研究計画に現場セラピストが抱えるアルコール依存症臨床の困難についての調査を加えることとした。研究協力してもらう現場セラピストの負担も配慮し、まずはインタビュー形式の調査から行うこととする。
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