2012 Fiscal Year Annual Research Report
冷戦期の東アジア・東南アジアから台湾への人の移動をめぐる社会的メカニズムの分析
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24830096
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
八尾 祥平 早稲田大学, アジア研究機構, 助手 (90630731)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 移民研究 / 華僑華人研究 / 台湾 / 香港 / 韓国 / 越南 / 沖縄 |
Research Abstract |
今年度は、国民党政権の国際戦略と台湾(中華民国)と周辺国との国際関係および台湾への反共義士・難胞・帰僑の国際移動における中間集団の役割について史資料の分析を中心に行った。分析の結果から、まず、1950年の中国大陸災胞救済総会(以下、救総と記す)の設立から1980年までの救総を介したアジアの諸地域から台湾への人の移動の概要を把握することができた。流入経路としては香港・韓国・ラオスからは1万人を超える規模での流入がみられた。ラオスからは、ヴェトナム(約4千人)を超える規模での人の移動があったということは本研究の当初の想定にない発見であった。これに加え、インド・パキスタン・レバノンといった南アジア・西アジアからも少数ながら台湾への流入があり、このことは、戦後の台湾をめぐる人の移動には第二次大戦後のアジアでの植民地独立戦争の混乱だけでなく、1970年代頃までは中華民国政府が統治領域を台湾とその周辺に限定されながらも国際社会のなかでは「中国」の正統政権として各国との外交関係があったこととも深く結びついていたことを示唆している。また、救総を介した来台者がさらに「琉球」へと再移動していったことも史料により実証的に明らかにすることができた。 1980年代以降の活動については2010年に発行された『救総60年』の分析を通して、組織名称の変更が数回にわたってなされた経緯や組織の反共的な性格が次第にうすまり、公式な外交関係が限定されている台湾が「国際社会」において活動していることを示す国際協力団体へと変容しつつあることも明らかになり、台湾の民主化および国際社会における「地位向上」という国家や国際社会というマクロレベルでの環境変化や課題がこうしたメゾレベルに与えた影響がどのようなものであったのかを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述したとおり、今年度は、国民党政権の国際戦略と台湾(中華民国)と周辺国との国際関係および台湾への反共義士・難胞・帰僑の国際移動における中間集団の役割を中心に研究をすすめた。史資料の収集・分析によって、救総を介したアジア各地から台湾への人の移動の全体像とそのメカニズムが把握できた。その際に研究を開始した当初は想定をしていなかった人の移動経路やその規模についても明らかにすることができた点は今後の新しい研究課題の掘り起しに結びつく発見であった。 また、救総による来台者がさらに国民党政権の反共政策およびそのネットワークと結びついて「琉球」へと再移動していたことはこれまでの調査者自身による聞き取り調査ではたびたび耳にしていたものの、このことを実証的な史料を掘り起こして裏付けることができた。 こうした移動・再移動は、単純に戦後の「台湾人」アイデンティティ形成や国民統合の問題にいかなる位置づけを占めるのかだけでなく、日本において「台湾人」アイデンティティが形成される歴史的過程について議論する際にも日本本土と沖縄ではかなり異なる歴史をもつことからこの問題を根底的に問い直す点でこれまでの通説の見直しを迫ることにもつながるという意義がある。 海外における「台湾人」アイデンティティ形成をめぐる問題意識にもとづき、早稲田大学アジア研究機構による『第6回次世代国際研究大会』において日本華僑・琉球華僑・韓国華僑について討議を行った。研究大会での討議を通じて、「在日台湾人」と呼称するのか、「台湾系華僑」と呼称するのかという議論を台湾という地域を前提に捉えるのではなく、韓国や沖縄を含めた東アジア全体から捉えなおす視座を模索することができた。こうした議論は将来的には在日コリアンや中国朝鮮族といった人びとについての研究との比較研究や討議への足掛かりとすることができる点でその意義は決して小さくはない。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究成果に基づき、来年度は、個別地域から台湾への流入過程と台湾での国民統合への影響について明らかにしたい。具体的な個別地域としては当初の予定では、香港・韓国・ヴェトナムを予定していたが、ヴェトナムを超える規模の流入がみられたラオスについても史資料の収集・分析を行いたい。より具体的には、台湾の中央研究院・近代史研究所档案館や國史館等に収蔵されている外交文書(『大陸逃港墺難胞』、『香港難民救済』、『香港中國難民問題』、『訪問韓戦反共義士損款慰労』、『越南難僑』、『越南難僑救済及自由新村建修』など)や『戰後外交史料彙編 韓戰與反共義士篇』(國史館, 2005)『中華民國越南歸僑協會』(中華民國越南歸僑協會, 1991)などといった出版物の収集と分析を行う。 こうした史資料の収集と分析を通して、反共義士(韓国)・大陸からの義胞(香港)・アジア地域からの帰国華僑というカテゴリーごとにわけ、戦争による捕虜や難民にあたる人びとの受け入れが台湾社会に与えたインパクトがどのように異なるのか、あるいは異ならないのかを実証的に検証したい。こうした検証を通して「台湾人」という帰属意識の歴史的形成過程を台湾内部だけにとどめる形で考察するのではなく、台湾を取り巻くより広い地域的な枠組みを構築し、台湾と他の地域との結びつきからこの問題について考察したい。 なお、こうした研究の成果は早稲田大学アジア研究機構の定例研究会や華僑華人学会などで報告した後に、『ワセダアジアレビュー』への論文投稿を予定している。
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