2012 Fiscal Year Annual Research Report
フランスの中等教育段階における教育評価論の展開―教師主体の学習評価―
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24830113
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
細尾 萌子 近畿大学, 公私立大学の部局等, 講師 (70633808)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 教育評価 / フランス / 教師 / 中等教育 / 指導と評価の一体化 / 国際情報交換 / 形成的評価 / コンピテンシー |
Research Abstract |
本研究では、1930年代から現在までのフランスの教育評価論が中等教育段階の学習評価の制度・実践にどのような影響を与え、指導の改善にいかに寄与してきたのかを明らかにすることで、質の高い学力を育む教師主体の実践的な学習評価システムへの示唆を得ることを目的としている。 そのために、9月2日~9月11日まで、フランス東部のシャロン・シュル・ソーヌ市の高校で、フィールド調査を行った。ヒレー・ド・シャルドネ高校の歴史・地理のリサージュ教師と経済・経営のジョアンヌ教師に、二人が行っているポートフォリオ法という形成的評価について、インタビューや授業観察、ポートフォリオ検討会の観察を実施した。ポートフォリオ法は、生徒に学習の主導権を持たせ、生徒の自律的・主体的な前進を励ます学習支援である。この成果は『近畿大学教育論叢』第24巻第2号に投稿した(印刷中)。 また、アメリカの教育目標・評価論が、「目標に基づいた教育方法(PPO)」として、1970-80年代のフランス中等教育の政策や現場にどのように受容されたかを明らかにし、その受容の仕方のフランス的特徴について指摘した。PPOとは、教師が目標を設定し、生徒の目標の達成度を指導過程で継続的に評価し、評価で見取った各生徒の学習困難に応じて支援するというアプローチである。この成果は、『日仏教育学会年報』第18号、2012年3月に、査読付き論文として掲載された(実際の発行は11月)。 さらに、2010年度からフランスの全国の小中学校で導入されているコンピテンシー個人簿(生徒の学習成績表)を検討することで、1990年代以降発展した「コンピテンシー」概念が従来の「技能」や「能力」とどのように異なるのかを明らかにした。 そして文献調査として、フランスのパリに1月2日から1月7日まで赴き、大学図書館や書店で、フランスの教育評価論に関する仏文献を入手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
まずフランスでのフィールド調査については、交付申請書の研究実施計画通り、文献収集と高校教師へのインタビューおよび授業観察を実施できた。その上、ポートフォリオ検討会の観察も行うことができ、評価を指導の改善につなげる実践の姿をより具体的に知ることができた。 次に文献調査については、交付申請書の研究実施計画で述べた「PPO」と「形成的評価」というフランスの教育評価論について、二つの論文を書くことができた。さらに、コンピテンシーに基づいた評価論についての論文一つも書くことができた。 以上の理由から、当初の計画以上に研究を進めることができたと自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は次の三つの課題に取り組みたい。 一つ目は、教科内容の知識を伝達するというフランスの中等教育の伝統を重視する派とコンピテンシーの育成を推進する派との間で起こっている論争を検討し、論文にまとめる。 二つ目は、形成的評価論がフランスで1970年代以降に興隆した背景や理論の枠組み、指導改善につながる可能性を探究する。 三つ目は、日本の学校で、評価を指導改善に活かすアクション・リサーチを進める。当初は近畿大学附属中学校・高校での調査を計画していたが、実施が難しいことが明らかとなったため、調査協力の承諾を得ている広島県庄原市立口南小学校を中心に研究を進める。
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