2012 Fiscal Year Annual Research Report
量子連続測定と場の理論を融合させた理論の構築とその非平衡伝導現象への応用
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24840015
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
渡辺 優 京都大学, 基礎物理学研究所, 助教 (80633271)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 量子情報理論 / 量子測定理論 / 量子統計力学 |
Research Abstract |
これまでの研究で、量子測定の反作用の影響を一般に明らかにするため、量子推定理論を用いて量子測定における誤差と反作用による擾乱を定式化し、それらの間に成り立つ不確定性関係を示したが、本年度はその実験的検証を探るべく、東北大学の枝松研究室を始め多くの実験家と議論を行った。この不確定性関係の適応範囲は量子光学系やNMRによる測定など、メゾスコピック系だけでなく多くの実験系にわたる。また、本研究によって、日本物理学会の第7回若手奨励賞を受賞した。 また、メゾスコピック系における量子測定の反作用を調べるために、孤立した量子系での緩和現象について研究を行い、Physical Review E 87, 012125 (2013)として論文が出版された。本論文では、孤立量子系の熱平衡化として広く信じられていたEigenstate Thermalization Hypothesis (ETH)と呼ばれる仮説のシステムサイズ依存性を議論し、物理量の揺らぎがシステムサイズのべき乗で小さくなっていく事を明らかにした。これまで、ETHは広く信じられていたにもかかわらず、本当にシステムサイズが大きくなるとETHが成立するのかわ明らかにされていなかった。しかしながら、本研究によって、それが初めて明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初予想していた以上に、測定の反作用の情報論的定式化とそれによる不確定性関係の導出は様々な実験家の注目を浴び、現在多様な量子系での実験的検証が計画されている。また、本研究により日本物理学会の第7回若手奨励賞を受賞した。 また、本年度出版された孤立量子系の熱平衡化についての論文(Physical Review E 87, 012125 (2013).)は、メゾスコピック系における量子測定の反作用の影響が、どのようにシステムの定常状態を乱し、それが緩和していくのかを明らかにする重要なステップとなる。実際、本論文を元にして、理想的なメゾスコピック系である光格子中の冷却原子を用いた実験系で、量子測定による反作用の影響を調べる提案を計画中である。 これらの研究により、アメリカで開催された国際会議Physics of Quantum Electronics(PQE2013)やウズベキスタンの国立ウズベキスタン大学にて招待講演を行った。また、多くの国内会議でも講演を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
量子連続測定過程における完全計数統計の理論を構築する。 完全計数統計は、近年の電流揺らぎの測定技術の発展に伴って注目されてきた理論で、通 過する電子数の確率分布そのものを計算することを目的としている。したがって、完全計数統計は電流の期待値や揺らぎだけでなく、より高次のモーメントについての情報も含んでおり、非平衡統計現象の解析に有効であると考えられている。これまでの完全計数統計理論は Keldysh グリーン関数など測定の影響を含んでいない手法によって定式化されてきたため、その結果は実験結果を定性的には説明できても、定量的には数倍のずれが生じてしまっている。24 年度に構築する量子連続測定の影響を情報論的に取り込んだ新しい計算手法を用いることで、完全計数統計理論を再定式化し、定量的にも実験結果を説明できる理論を構築する。 次に、ここまでで構築された測定の影響を取り込んだ完全計数統計理論を用いて、これまでの実験によって得られている有効電荷や Fano 因子が正確に求められるか検証する。具体的には、近藤状態量子ドットの電流揺らぎなどの非平衡伝導特性やアハラノフ・ボームリングを用いた揺らぎの定理の検証実験など、これまでの理論では定量的には説明することのできなかった非平衡伝導現象について、完全計数統計を用いてショットノイズなどの揺らぎを計算し、実験値との比較を行う。また、状況に応じて、モンテカルロ計算などとの比較も行う。
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Research Products
(8 results)