2012 Fiscal Year Annual Research Report
超新星残骸における宇宙線加速のエネルギー注入と持続性の解明
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24840036
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
澤田 真理 青山学院大学, 理工学部, 助手 (00633281)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 超新星残骸 / X線天文学 / 非平衡プラズマ / 宇宙線加速 |
Research Abstract |
すでに申請者が再結合プラズマを発見した超新星残骸W28についてすざく衛星によるX線データ解析を進めた。全3観測によって残骸のほぼ全域をカバーできたため,これを数分角サイズの微小領域に分割し,場所ごとにスペクトル解析を行った。 元素ごとに測定した電離度から超熱的粒子の密度,スペクトルを推定するためには,超熱的粒子の効果を含んだ電離過程と,そのあとの再結合過程を組み合わせた非平衡プラズマシミュレーションが必要である。このようなコードは存在しないため,Jelle Kaastra氏との共同研究のためオランダ宇宙研究機関に6週間滞在した。この間,(1) 電離非平衡状態の原子物理データを改訂し,これを用いて (2) 超熱的粒子など非マクスウェリアン的電子分布を考慮した電離非平衡プラズマコードを作成した。さらにこれに (3) 電子分布の時間発展を取り込んだ。以上をもって現在および将来のX線観測データを解析・解釈するのに必要な技術的道具立てが整った。 本年度はこのほか,共同研究によりW28と性質のよく似た銀河面付近の中年齢超新星残骸W44からの再結合プラズマおよび硬X線フィラメントの発見に貢献した。とくに硬X線フィラメントの発見に関しては,中年齢残骸からの確実な報告事例は皆無である。加速の持続性の問題に迫る上で,今後同種の構造の探査が重要である。またおなじく共同研究により,超新星残骸W51CのX線観測結果を報告した。この残骸は銀河面上に位置し,中年齢の残骸であるというW28やW44と共通の性質を持つが,再結合プラズマは有意に検出されなかった。また超熱的電子による電離の兆候も見られなかった。この残骸では,熱的電子に対する電離の進行度が比較的低いことから,典型的な加速効率を適用すると超熱的電子による電離の効果も非常に小さくなりうることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の進行はおおむね順調であると言えるが,当初の研究計画に対してはやや遅れている状況である。第一年度の研究計画は,まず (1) 再結合プラズマをもつ残骸のすざくデータを空間的に分割して解析し,各領域で元素ごとの電離度を明らかにすることである。次に (2) これを解釈するため,超熱的粒子の効果を含んだ非平衡プラズマコードを開発することである。最後に (3) 観測した電離度とプラズマコードの比較から,超熱的粒子のエネルギースペクトルと密度を制限し,また電離・再結合のタイムスケールを算出することで加速の持続性を検証することである。今年度は 再結合残骸W28について (1) を達成し,またオランダ宇宙機関との共同研究により (2) も達成したが,(3) は未到達である。遅れの主な理由は,(2) の共同研究を行うための国外出張が,教育業務などのため年度末まで不可能だったためであり,研究内容そのものに予期せぬ困難があったわけではない。したがって第二年度に遅れを取り戻すことが十分可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては,まず第一年度の未到達内容を達成し研究計画の遅れを取り戻す。具体的には,すでにX線データ解析の済んでいるW28において,観測結果とプラズマシミュレーション結果を比較し,この残骸における超熱的電子の電離への影響を見積もる。これから,超熱的成分の相対密度,エネルギースペクトルの制限を試み,電離のタイムスケールから加速の持続性にも迫る。 引き続いて,当初の第二年度の研究計画にうつる。上記の比較から,残骸内で場所ごとに超熱的電子の密度,存在時期が推定できれば,これを空間的に可視化することで加速の時間発展を明らかにできる。さらに現在の加速粒子の分布を示すと考えられるGeV/TeVガンマ線観測結果とも比較する。ガンマ線の分布は加速粒子の衝突ターゲットとなる分子雲の分布にも依存するので,必要に応じ分子輝線データの解析も行う。 本研究を遂行するためには,多波長データが豊富で,再結合プラズマを持ち,分光性能のよいすざく衛星によるX線データが豊富な残骸が必要である。本研究の将来的な発展のため,再結合プラズマのサンプルを増やすことも重要である。随時すざくによる探査観測を提案する。 観測とシミュレーションの比較の上では,プラズマコードの不定性が重要となる。すでに第一年度には使用する原子物理データのアップデートを行うなど,これを考慮した補助的研究も行っているが,第二年度でも必要に応じ,不定性を把握・最小化するためのコード改訂作業を行う。 第一年度の研究成果については多くが未公表であるため,これらの出版も行う。
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