2012 Fiscal Year Annual Research Report
放電現象によるグローバルな地球対流圏・電離圏間結合の観測的研究
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24840040
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
足立 透 早稲田大学, 高等研究所, 助教 (10632391)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 雷放電 / 人工衛星 / リモートセンシング |
Research Abstract |
本研究課題は対流圏・電離圏間の電磁結合を地球規模で理解するため、(目的1)雷放電の特性を推定する新しい手法の確立と、(目的2)それに基づいて雷・超高層放電の結合関係をグローバルに調査することを目的とする。このうち初年度は目的1に取り組み、(フェーズ1a)電気特性と発光特性の関係、(フェーズ1b)雲内放電と対地放電の分別、(フェーズ1c)電流規模と時定数の推定に関する研究を遂行した。 フェーズ1aでは生波形レベルのイベント解析を行い、雷発光の時空間・波長における性質を雲内放電と対地放電に分けて詳細に明らかにした。この過程では、一つの雷を数100マイクロ秒単位の基本プロセスにまで分離して、その性質を詳しく調査することに成功した。フェーズ1bでは、雷の性質をパラメータ化して、雲内放電と対地放電を識別する技術の確立に取り組んだ。地球大気による光の散乱効果がスペクトル毎に異なることを利用して、地表面の深い大気に進展する対地放電と大気の上層部で発生する雲放電が識別可能であることを示した。フェーズ1cでは、雷の電気・発光特性の関係性を応用して、光学観測から雷放電の電流規模や時定数の推定を行った。 過去の衛星光学観測では単一波長の計測に基づいて行われていたため、雷放電のグローバルな分布を明らかにしてはいたものの、その詳細な特徴は理解されていなかった。本研究は、このような衛星光学観測を世界で初めて多波長に展開することで雷発光の色を識別し、雲内・対地放電の分別などの性質の理解を可能としたものである。本研究によって得られた雲内放電と対地放電の識別手法は、地球電磁環境の理解を促進させる根幹技術であるだけでなく、近年の社会問題となっている極端気象を理解・予測する鍵として高く期待されるなど、サイエンス・防災の両側面において重要度の高い成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の初年度の目標は、光学観測によって雷放電の電気的性質を推定する新しい手法を開発することであった。この目標を達成するため、「研究実績の概要」で述べたフェーズ1a-1cの3つの過程を設定し、スケジュールに沿って研究を遂行した。本目標は、過去に確立されていない新技術の開発を目指すものであるため、期待された成果が得られない場合に備える必要があった。そこで本研究計画では、3段階のサクセス・レベルを設けることにより、確実な成果を挙げられるように配慮した。 それぞれのサクセス・レベルは、(ベーシック)1次データの解析から得られる成果、(フル)新しい解析手法の確立とその活用による成果、(アドバンスト)革新的な知見の獲得である。ベーシック・サクセスは1次情報である光学データの解析によって雷放電の発光特性を明らかにできる場合であり、フル・サクセスは光学データから2次情報である電気的性質(雲内・対地放電の別、電流規模、時定数など)を導出することが可能となる場合、そしてアドバンスト・サクセスは、そこから将来の科学・実用衛星における新しい観測手段の提案が可能となる場合である。 この当初の計画に対して、初年度の研究では、過去には実施されていなかった多波長のフォトメータ観測を実施することで、雷放電の発光の色を識別し、雲内・対地放電の分別を実現するに至った。さらに、100マイクロ秒の高時間分解能を有するデータの解析によって、1つの雷イベントを個々の素過程にまで分解して理解することに成功したほか、信頼性の高い発光強度の見積もりに基づいて電流規模の推定を実現した。これらの成果は、計画段階に設定したフル・サクセスに相当するものである。以上の理由により、本研究課題は研究計画に基づいておおむね順調に進展していると総括される。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に開発された雷放電特性の推定に関する新技術を活用して、(目的2)雷・超高層放電の結合関係のグローバルな調査に取り組む。研究全体の進行を以下の2つに区分することによって、効率的な研究の遂行を目指す。 (フェーズ2a)雷放電の全球的性質(H25年4月1日-同年8月31日) 初年度の研究で確立した雷放電特性の推定手法と米国スタンフォード大学が開発を主導する全球観測ネットワークGLD360を併せ用いて、雲内放電と対地放電の世界分布の導出を目指す。特に、緯度・地域・海陸への依存性に着目し、これまで未解明であった地球規模での雷放電の性質(雲内・対地放電の別、電流規模、時定数)の理解を目指す。 (フェーズ2b)超高層放電の全球分布との比較 (H25年9月1日-H26年3月31日) フェーズ2aで得られる雷放電のグローバルな性質と、申請者と研究協力者が既に築き上げている超高層放電の全球発生分布のデータを比較解析する。まず両現象の観測範囲や検出率を空間補正したデータセットを作成し、雷放電に対する超高層放電の発生確率の分布を導出する。そしてフェーズ2aの結果と比較解析することで、雷放電の性質がどのように超高層放電の発生をコントロールするのかを緯度・地域・海陸への依存性といった観点から総合的に調査し、地球対流圏・電離圏間の電磁結合のグローバルな理解へとつなげる。 本研究では、国内外の研究者との共同解析によって円滑な遂行を目指す。特に、解析に用いるデータの専門家である、米国スタンフォード大学やカリフォルニア大学、デューク大学、ミシシッピ大学、NASA、北海道大学、台湾国立成功大学の研究者との共同研究を土台とする。これらの研究協力関係は既に構築されているため、確実な研究の推進が期待される。
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[Presentation] FORMOSAT-2/ISUALによる雷放電の衛星光学スペクトル観測
Author(s)
足立透, M. Cohen, G. Lu, S. Cummer, R. Blakeslee, R.-R. Hsu, H.-T. Su, A. B. Chen, Y. Takahashi, S. B. Mende, and H. U. Frey
Organizer
日本気象学会2012年秋季大会
Place of Presentation
北海道大学(北海道)
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[Presentation] FORMOSAT-2/ISUALによる雷放電の多波長フォトメータ観測
Author(s)
足立透, M. Cohen, G. Lu, S. Cummer, R. Blakeslee, R.-R. Hsu, H.-T. Su, A. B. Chen, Y. Takahashi, S. B. Mende, and H. U. Frey
Organizer
地球電磁気・地球惑星圏学会第132回講演会
Place of Presentation
札幌コンベンションセンター(北海道)
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[Presentation] Coincident observation of lightning using spaceborne spectrophotometer and ground-level electromagnetic sensors
Author(s)
Adachi, T., M. Cohen, G. Lu, S. Cummer, R. Blakeslee, T. Marshall, M. Stolzenburg, S. Karunarathne, R.-R. Hsu, H.-T. Su, A. B. Chen, Y. Takahashi, S. B. Mende, and H. U. Frey
Organizer
American Geophysical Union 2012 Fall Meeting
Place of Presentation
Moscone Center (Calif., USA)
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[Presentation] Nadir observation of lightning and TLEs by JEM-GLIMS: Comparison with ISUAL limb observation
Author(s)
Adachi, T., M. Sato, T. Ushio, T. Morimoto, A. Yamazaki, M. Suzuki, M. Kikuchi, Y. Takahashi, U. Inan、I. Linscott, Y. Hobara
Organizer
Japan Geoscience Union Meeting 2013
Place of Presentation
幕張メッセ(千葉県)
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