2012 Fiscal Year Annual Research Report
次世代ミリ波磁気光学効果を実現するための新規磁性酸化物の研究
Project/Area Number |
24850004
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
生井 飛鳥 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40632435)
|
Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
|
Keywords | 磁性材料 / ミリ波 / セラミックス / ナノ材料 |
Research Abstract |
絶縁性磁性体は自然共鳴現象による電磁波吸収を示すが、保磁力が大きいほど自然共鳴周波数が高くなることが期待されるため、自然共鳴周波数の広域制御という観点から、高保磁力磁性材料の開発を進めた。具体的には、金属磁性酸化物の中で最大の保磁力を示す、イプシロン型‐酸化鉄(ε-Fe2O3)の鉄イオン(Fe3+)の一部を、他種の金属イオンで置換することにより、保磁力の向上を狙った。中でも、保磁力・共鳴周波数が向上することを見出しているロジウム置換について、重点的に検討を行い、保磁力・共鳴周波数のさらなる向上を検討した。合成法としては、①ゾル-ゲル法、②逆ミセル法とゾル-ゲル法の組み合わせ法、③メソポーラスシリカを鋳型に用いたナノ微粒子合成法等の化学的ナノ微粒子合成法を用いた。得られた試料については、透過型電子顕微鏡による形状観察、X線粉末回折による結晶構造解析、磁気特性の評価、ミリ波帯における電磁波吸収特性評価を行った。 その結果、ゾル-ゲル法を用いた合成により、ロジウム置換量が最も多い試料を得た。得られた試料は、イプシロン酸化鉄と同じ斜方晶の結晶構造をとっていた。X線粉末回折のリートベルト解析の結果、4つある非等価鉄サイト(A~Dサイト)のうち、選択的にCサイトを置換することを明らかにした。得られたロジウム置換型イプシロン酸化鉄は、高周波ミリ波領域に磁気光学効果を示すことが期待される。検討したゾルゲル法による合成プロセスは、簡便であり、有機溶媒を用いないため、有用であると考えられる。 また、金属置換型イプシロン酸化鉄ナノ粒子を分散させた溶液と樹脂の混合液を作成し、約1Tの外部磁場を印加しながら固化させることにより、配向体作成の検討を行った。その結果、X線粉末回折および磁気特性の測定により、結晶方向の配向が認められた。本材料は、高周波ミリ波回転効果を示すことが期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H24年度は、種々の化学的ナノ微粒子合成法を用いて、金属置換型イプシロン酸化鉄の合成検討を行った。その結果、保磁力・共鳴周波数の増大効果を見出しているロジウム置換型イプシロン酸化鉄において、ロジウム置換量の多い試料の合成に成功した。本材料は、本研究課題において目標に掲げている、「大気の窓」と呼ばれる、大気中で電磁波が伝搬しやすい周波数の最高周波数である220 GHzにおいて、電磁波吸収を示すことが期待される。また、H24年度は金属置換型イプシロン酸化鉄の結晶配向体作成の検討を行い、結晶方向の配列に一定の成果が上がっている。ミリ波吸収測定システムに偏光子・検光子を組み込み、ミリ波帯の偏光特性を調べることで、ミリ波磁気光学効果の観測が期待される。H25年度は、得られた試料のミリ波吸収特性および回転特性の観測を行う予定であり、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
H25年度は、H24年度に得られた試料のミリ波吸収特性の測定を進め、ミリ波吸収周波数の220 GHzへの到達を目指す。具体的には、ロジウム置換型イプシロン酸化鉄において、形状制御材の添加など合成法を詳細に検討して高置換を目指すとともに、他種の金属置換による吸収周波数の高周波化と、吸収量の向上の検討を行う。金属置換種の検討には、電子状態を調べることも有用であると考えられるため、第一原理計算による電子状態計算を行う。また、H24年度に得られた結晶配向体のミリ波回転特性の測定を進めるとともに、結晶配向体の作成において重要である粒子分散性の向上の検討と、高磁場下での試料作製を進める。結晶配列体を作成することにより、ミリ波帯の磁気光学効果が期待されるだけでなく、ミリ波吸収量の向上も期待される。更には、結晶構造、磁気特性、ミリ波吸収特性の相関を、温度依存性や結晶方位依存性の測定により調べ、イプシロン酸化鉄の高周波ミリ波吸収特性のメカニズムを検討する。
|