2012 Fiscal Year Annual Research Report
非軸対称エンクロージャ内における回転ディスクによる複雑流れの大規模渦構造の解明
Project/Area Number |
24860041
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
白井 克明 神戸大学, 自然科学系先端融合研究環重点研究部, 助教 (00634916)
|
Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
|
Keywords | 流体工学 / 流れの可視化 / 情報ストレージ機器 / ハードディスクドライブ / 乱流 |
Research Abstract |
非軸対称形状エンクロージャ内の積層回転ディスクによる流体の流れは、さまざまな機器において幅広く見受けられる複雑な流れのひとつである。本研究では、流体関連振動と密接に関わるこの複雑流れに注目し、大規模渦運動の構造と障害物の挿入による影響の解明を目指している。対象とする流れとして、具体的にはハードディスク・ドライブ(HDD)を念頭に置いている。近年、情報量の増大や、クラウド・コンピューティングおよび情報ネットワーク技術の発達と普及により、サーバーやデータセンターにおいてHDDの需要増加が予見される。他の情報ストレージ機器と比較すると、HDDは読み書き速度および容量当たりの単価から今後も優位性を保つと考え、今後はその信頼性が重要性を増す。 平成24年度の研究では、理論的な検討と、単純化モデルの構築、実験モデルの設計、製作を行った。理論的検討においては、過去の研究例との整合性を考慮して軸対称エンクロージャ(円筒容器)内の流れとして扱った。支配方程式と相似パラメータを整理し、実験モデル設計に役立てた。次に、単純化モデルを構築した。特定の製品に特有な現象ではなく、同様な流れに共通な物理現象を捉えることを重視した。具体的には、流通している3.5インチデスクトップコンピュータ用HDDドライブ製品の各部寸法を写真から抽出した。多くの製品に共通する特徴を単純化し、寸法を平均化したHDD流れのモデルを構築した。モデルの過度な単純化で重要な現象が見落とされないよう、実際に国内外の研究協力者と協議し、一部の意見を取り入れて実験モデルを設計・製作した。完成装置は、読み書きアーム収納部の停流域を取り入れた非軸対称形状シュラウド開口部と2枚の積層回転ディスク、挿入角度を変えられる読み書きアームを模擬した薄い障害物を擁するものとなった。次年度の可視化実験を考慮して、主要部分はすべて透明アクリル樹脂で製作した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究達成度に関して、採択通知時期や予算の使用が可能な期間がおおよそ半年という条件を考慮すれば、概ね進展したと考えられる。当初の計画では、流れの理論検討および実験装置の設計・製作を初年度内に予定していた。採択通知前であったが、国際会議で国外の専門家と協議する機会があり、実験モデル構築において有意義であった。また、当初は実験モデルをガラス製にする計画であったが、加工や材料費の観点からアクリル樹脂製に変更した。アクリル樹脂製の場合には、実験時に部品が変形する可能性があり、慎重に設計を進めた。実験装置設計においては、研究代表者と製作依頼先業者の双方の経験を活かして比較的問題なく進行し、年度内に完成まで至った。可視化光源として他の助成金等によるレーザーの購入を計画していたが、助成金が採択成らなかった。そのため、計画を変更して、学内の他の研究者からレーザー光源を借りて使用する手筈を整えた。実験装置設計・製作に加え、光源の取り付け部分も初年度内に行った。研究遂行上、困難だったこととして、実験時の安全対策に対する費用の支出であった。本研究はレーザーを使用した実験を含むことが当初から明確であり、その安全対策が欠かせない。実験室の安全対策は科学研究費の規定に鑑みて直接経費で支出できないものであり、間接経費で賄うのが妥当と考えられる。本研究予算の間接経費からの支出に関して、間接経費の配分先である大学部局に申請したが、却下された。研究スタートアップ支援において、安全対策など根本的に不可欠な用途に関して直接経費および間接経費で賄えないことは研究遂行の差支えとなる可能性がある。また、屈折率調合に関しては実際に実験を行う段階まで進める予定だったが、至らなかった。代わりに、屈折率調合と作動流体の選択に関するまとまった文献調査を通じて有用な情報を得たので、次年度の作動流体選択に活用する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度の進捗を踏まえ、今年度は可視化実験の準備と遂行に重点を置く。研究計画の変更および遂行上の問題点に関しては、3に記入した。 可視化実験は、屈折率調合と蛍光法の併用を計画している。まずは、アクリル樹脂製の実験モデルの屈折率を合致した作動流体を用いることで屈折率調合を実現する。初年度の文献調査から数種類の候補が絞り込まれている中、作動流体の安全性(揮発性、引火性、毒性など)および粘度に関して考慮し、2種類の流体を混ぜて作成する予定である。また、流体の屈折率は可視化照射光の波長および温度に対する依存性が強い。そのため、完璧な屈折率調合を行うことは困難を極め、興味のある読み書き模擬アーム付近などで強い散乱光が発生する問題が生ずると考えられる。そこで、蛍光法を併用して、屈折率の異なる流体と固体の境界部分での反射を低減する計画である。具体的には、蛍光粒子を使用する予定である。照射光により励起された蛍光粒子は、照射光よりも長波長側にシフトした波長の蛍光を放出する。適切な波長フィルターを用いて粒子からの散乱光のみを抽出すれば、流体のみの挙動を観察することが可能となる。ただし、蛍光は強度が弱いため、量子効率(光子を電子に変換する際の効率の指標)の高いカメラを慎重に選定する予定である。 可視化実験準備完了後、模擬アームの挿入が無い状態で可視化実験を開始する。最初は流れ場全体を観察するようにして実験を行い、大規模渦構造の多角形パターンに関して調べる。その後はHDD動作時を考慮してアームを挿入した状態で観察を続ける。挿入角度を変えて実験を繰り返し、アーム付近の流れを詳細に観察し、その影響を評価する。複数の可視化断面において、系統的に渦の大きさやその発達状況を子細に観察する。国内外の複数の研究協力者との積極的な研究討議に加え、他の実験や数値解析結果との関連を踏まえて最終的に本研究の結果を考察する。
|