2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24870017
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 博俊 京都大学, 地球環境学堂, 特定研究員 (10635494)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 共生 / 進化 / 菌根 / 菌類 / DNA / 熱帯 |
Research Abstract |
本研究では、外生菌根菌とその共生植物(宿主植物)との共進化関係に注目しながら、外生菌根菌の種多様化の起源を探ることを目的としている。特に、申請者は、外生菌根菌と共生する樹種の中でも、白亜紀において、インド亜大陸の移動に伴って東南アジア地域に進出し、適応放散したフタバガキ科樹種に特に着目している。この研究を遂行するに当たっては、外生菌根菌の高精度の分子系統推定と、外生菌根菌の宿主特異性に関する祖先形質復元が重要となるが、本年度は、外生菌根菌の分子系統推定を高精度に行うための菌類標本のサンプル収集とPCRプライマーの設計について重点的に行った。 まず、サンプル収集については、研究材料である外生菌根菌イグチ目菌の子実体標本を京都市・菅平(長野県)・天塩(北海道)の森林から採集した。さらに、マレーシア森林研究所標本庫(マレーシア)を訪問し、フタバガキ科樹種の多様性がもっとも高い東南アジア地域のイグチ目標本のDNAサンプルを収集した。また、エディンバラ王立植物園標本庫(スコットランド)、およびキュー王立植物園標本庫(イングランド)も訪問し、ヨーロッパ・中央アフリカ・東アフリカ・南アジア・オセアニアのイグチ目標本のDNAサンプルを収集することができた。 また、高精度分子系統樹を構築するために使用するタンパク質コード領域の選定も行った。ゲノム解読済みの菌(出芽酵母、セイヨウショウロ、シイタケ、オオキツネタケ)のゲノム情報を比較し、Protein-protein BLAST (blastp) 検索を行って保守性の高い領域(タンパクコード領域)を探し出し、その中でコピー数が極力少ない領域を選別した。現在、プライマーは設計中であり、設計が完了し次第、分子実験を開始する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究を遂行するに当たっては、外生菌根菌イグチ目菌の分子系統推定に用いるためのDNAサンプル収集がもっとも重要で律速となる作業であった。その点においては、本年度中に国内外からDNAサンプルをほぼ予定通り終了できたことは大きいと考えている。イグチ目菌の分子系統推定のためのタンパク質コード領域の選定については、現在、プライマー設計の作業が進行中ではなので、当初の予定からいえば、若干の遅れが出ていると言える。しかしながら、この作業についても一定のめどが付けられた点において、今後の研究を遂行していく上では、大きな支障はないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
外生菌根菌イグチ目について高精度の分子系統推定を行うため、分子系統推定に用いるタンパクコード領域の選別、およびそれらの領域をPCRするためのプライマー設計を完了させる。設計したプライマーを用いてPCRを行った後、次世代シーケンサーによってタンパクコード領域の塩基配列をすべて解読し、塩基配列あるいはアミノ酸配列をつなぎ合わせたデータ(スーパーマトリックス)からRAxMLやMrBayesを用いた分系統推定を行う。 子実体の配列データから構築した分子系統樹に宿主植物情報を配置していくため、菌根サンプルを収集し、菌根共生する菌根菌と宿主植物の組み合わせの情報を可能な限り大量に準備する。最先端・次世代研究開発支援プログラム『「共生ネットワークのメタゲノム解析」を基礎とする安定な森林生態系の再生(研究代表者・東樹宏和)』のプロジェクトにおいて、すでに苫小牧・京都・屋久島・マレーシアサラワク州の菌根サンプルを大量に採集しており、リボソームRNA遺伝子の遺伝子間領域(ITS2)を解読済みである。本研究では、これらの菌根サンプルのうち、イグチ目菌と同定することのできた菌根サンプルを解析に用いる予定である。 次に、子実体の配列データから得られた分子系統樹と、菌根サンプルから得られたITS2領域の配列データを用いて、菌根サンプルから見つかったイグチ目菌が子実体サンプルの大量配列データから構築した分子系統樹(Guide Tree)のどの系統位置にくるかを推定していく。この作業を行うためには、RAxMLに実装されているEvolutionary Placement Algorithm(EPA)という方法を用いる予定である。ここまでの成果について、論文にまとめ、投稿する予定である。
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