2012 Fiscal Year Annual Research Report
トキソプラズマ感染における中枢神経系障害の発症メカニズムの解明
Project/Area Number |
24880006
|
Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
田中 沙智 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 研究員 (90633032)
|
Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
|
Keywords | トキソプラズマ / 原虫感染症 / 中枢神経系 |
Research Abstract |
トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)は細胞内寄生性原虫であり、トキソプラズマ感染症はヒトを含めた多くの哺乳類を中間宿主とする人獣共通感染症の一つである。ヒトにおいて免疫抑制状態にあると、脳内に寄生していたトキソプラズマが活性化して、トキソプラズマ脳炎を発症する場合がある。しかしながら、トキソプラズマ感染時における中枢神経系障害の発症の詳細なメカニズムについてはほとんど知られていない。本研究では、トキソプラズマ感染における脳神経系細胞の細胞死を誘導するトキソプラズマ由来制御因子の探索・同定を行い、トキソプラズマ感染における神経系障害の発症機序を明らかにすることを目的とする。 本年度では、まず、トキソプラズマ感染時の脳内の遺伝子発現の変化を網羅的に解析した。方法は、BALB/cマウスにトキソプラズマ(Type 2:PLK株)を感染させ、感染32日後に脳組織のサンプリングを行い、RNA-seq法によるトランスクリプトーム解析を行った。その結果、トキソプラズマを感染させたマウスの脳において、感染で2倍以上発現が増加した遺伝子は、ケモカインやMHC分子などであり、免疫反応や抗原提示に関わることが示された。一方で、脳内の虫体数が増加すると、神経系に関わる遺伝子発現が低下することが示された。 また、上記実験で得られた遺伝子発現変化について、細胞生物学的に解析をするために、マウス胎児より脳細胞を単離し、分化培地にてニューロン、ミクログリア、アストロサイトを分化誘導させる初代培養系を確立した。分化誘導させたニューロン、ミクログリア、アストロサイトに対して、トキソプラズマ(PLK株)を感染させたところ、ミクログリアにおいて神経系機能に影響を及ぼすサイトカインや神経障害を促す物質が高産生されることが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では、トキソプラズマ感染時の脳内の遺伝子発現の変化について、網羅的な解析をすでに完了している。また、マウス神経系細胞の初代培養系を確立しており、トキソプラズマ感染における脳神経系細胞の細胞死を誘導するトキソプラズマ由来制御因子の探索・同定に向けてin vitroでの検証を行っているため、おおむね順調に進展していると思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度においては、ミクログリアに対して神経細胞死促進因子を産生誘導したり、神経細胞に対して細胞死を誘導する原虫由来制御因子の同定を行う。制御因子の同定方法としては、各種カラムで分画された原虫可溶性タンパク質画分から神経細胞死を誘導する遺伝子、または炎症性サイトカインの遺伝子発現を指標にスクリーニングし、質量分析法による同定を行う。次に、同定された制御因子の遺伝子をノックアウトさせた原虫を作出し、in vitroの実験系で原虫由来の制御因子の機能解析と、炎症あるいは細胞死に関わるシグナル伝達経路を明らかにする。神経系障害を引き起こすトキソプラズマ由来タンパク質の遺伝子が虫体の生存に必須であった場合、ノックアウト原虫を作出できない可能性がある。この場合、原因タンパク質の過剰発現原虫の作出や薬剤による発現調節(Conditional knockout)を行い、虫体が死滅しない条件で実験に供する。 また、ノックアウト原虫を感染させたマウスの感染実験においては、感染後のマウスの体重と感染による臨床症状(虚脱、毛の逆立ちなど)を呈するかを観察し、慢性感染が成立する感染1か月後にマウス脳組織のサンプリングを行う。病理学的な解析により、脳組織におけるシスト形成数、炎症などの病変の有無について野生型原虫とノックアウト原虫で比較することで、生体内での原虫由来制御因子の役割を明らかにし、最終的には、トキソプラズマ由来因子によって引き起こされる中枢神経系障害の発症機序の解明を目指す。
|