2012 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫の脱皮・変態を支配する幼若ホルモン生合成の時期特異的な制御機構の解明
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24880008
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
金児 雄 弘前大学, 農学生命科学部, 助教 (90633610)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 昆虫生理学 |
Research Abstract |
昆虫の脱皮・変態はエクダイソンと幼若ホルモン(JH)のバランスによって制御されている。そこでJH生合成の機構を探ることで変態の制御機構の解明に取り組んでいる。 1、JH生合成制御因子の探索:これまで脱皮という行動を支配すると考えられていた脱皮行動刺激ホルモン(ETH)がJH生合成を促進することを見出した。JHの産生組織であるアラタ体をETHで刺激すると濃度依存的にJH合成の促進が認められた。 2、受容体のアラタ体での発現変動解析:short neuropeptide F (sNPF)、Allatostatin (AST)、ETHへのアラタ体の応答は時期特異的にみられ、それはそれぞれの受容体の発現変動によって引き起こされると考えられる。そこでsNPF、AST、ETH受容体の発現解析を行った。sNPFはJH合成を時期依存的に抑制し、それはsNPF受容体の発現が高い時期に限られていることがわかった。このことからsNPFによる抑制効果は受容体の発現に制御されていることが示唆された。またETHについては脱皮直前にJH合成促進効果が見られたが、これに先だって受容体の発現が一過的に上昇することで、ETHに対する応答性を獲得することが示唆された。 3) Allatotropin (AT)によるsNPFを介したJH生合成制御機構:これまでATは成虫期ではJH生合成を促進するとされてきたが、sNPF産生細胞で発現していたことから、ATはJH生合成抑制因子であるsNPFの合成を制御する可能性が強く示唆された。そこでATを培地に添加し側心体の組織培養を行い、ATがsNPFを転写レベルで制御するかについてreal-time PCRで検証した。その結果、ATによりsNPFの発現が有意に誘導された。このことから従来の定説とは異なり、ATはsNPFの発現制御を行うことでJH合成制御に関与することがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度は新規のJH生合成制御因子の探索と、既知の制御因子の受容体の発現解析を通した時期特異的なJH生合成制御の解明を目標とした。その結果、新規のJH生合成制御因子としてETHを見出した。また、目標とした受容体の発現変動解析は終了し、それによってsNPFとETHによる時期特異的なJH生合成制御は受容体の発現状態によっていることが示唆できた。また、JHを制御する因子として知られていたATがsNPFの転写制御を行うことを発見した。これらはいずれも24年度に達成することを目標としており、順調に研究が進んでいることを物語っている。
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Strategy for Future Research Activity |
JH生合成は時期特異的に複数の因子が同時に作用することで制御されているが、各因子間の相互作用は全くわかっていない。そこでsNPF、AST、ETH、prothoracicostatic peptide(PTSP)に対して合成・分泌及び受容体の発現の変動ついて、各因子間の相互作用に着目して下記の実験を行う。相互作用の検証は、sNPF、AST、ETH、PTSPの濃度変化とアラタ体での受容体の発現変動パターンを考慮して、適正な組み合わせで行う。 sNPF、AST、ETH、PTSPがお互いに合成・分泌に対して影響を与えることが想定されるので、このことをsNPF、AST、ETH、PTSPを各ペプチドホルモン産生組織に作用させ、合成量・分泌量を測定することで検証する。 sNPF、AST、ETH、PTSP受容体のアラタ体での発現に対しても4因子の相互の影響をin vitroで解析する。加えてsNPF受容体はインスリンにより制御されるという報告があるので(Root et al., 2011)、sNPF受容体に関してはインスリンの影響も検討する。 JH生合成の変動はJH合成酵素遺伝子の発現変動に大きく依存するため、sNPF、AST、ETH、PTSPがJH合成酵素遺伝子の転写制御を介してJH生合成を制御することが考えられる。そこでsNPF、AST、ETH、PTSPによる JH合成酵素遺伝子のmRNA発現への影響を組織培養によって調べる。このことによりいつ・どのJH合成酵素遺伝子の発現がsNPF、AST、ETH、PTSPで制御されるかが明らかになる。
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