2012 Fiscal Year Annual Research Report
双極性障害におけるTRPM2/GSK3βを介した細胞内カルシウム制御障害の解明
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24890078
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
上村 拓治 山梨大学, 医学部附属病院, 助教 (60377497)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 双極性障害 / 細胞内カルシウム制御 / TRPM2 / GSK3β |
Research Abstract |
本研究は、TRPM2とGSK3βのクロストークから双極性障害における細胞内カルシウム制御障害を明らかにし、双極性障害の発症機序を解明することを目的とする。本年度は、U-87MG細胞にLiCl(濃度:0~2 mM)を投与し、0~7日後に各々の細胞を回収し、TRPM2、GSK3βの発現変動をリアルタイムRT-PCR法を用いて定量的に測定した(各群は5サンプルずつ)。各群の発現量は、反復測定2元配置分散分析及びボンフェローニ検定によって統計学的に評価した。 1 TRPM2の発現量:1日後では、発現量の差はなかった。3日後では、LiCl濃度依存性に発現量の低下を認めたが、統計学的有意差はなかった。7日後では、0.5 mM LiCl(以下、コントロール[0 mM LiCl]と比較した平均値±S.D.; 0.74±0.18)、 1.0 mM LiCl(0.49±0.21)、2.0 mM LiCl(0.47±0.19)であった。1.0、2.0 mM LiClでは、統計学的有意差を持って減少していた(1.0、2.0 mM LiCl ともにp < 0.01)。しかし、1.0と2.0 mM LiClの間では差を認めなかった。 2 GSK3βの発現量:1日後では、各群で差はなかった。3日後では、LiCl濃度依存性に発現量の上昇を認めたが、統計学的有意な差はなかった。7日後では、0.5 mM LiCl(1.12±0.06)、 1.0 mM LiCl(1.48±0.12)、2.0 mM LiCl(1.50±0.09)であった。1.0、2.0 mM LiClでは、発現量の上昇を認めた(p < 0.0001)。しかし、1.0と2.0 mM LiClの間では、発現量の差はなかった。 RNAレベルだけではあるが、経時的にTRPM2の発現量は低下していくが、GSK3βは、増加していくことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
LiClによる経時的、濃度依存的なTRPM2 とGSK3β の発現変動を明らかにするために、Applied Biosystems社製の 7900HT Fast リアルタイムPCRシステムを使用してリアルタイムRT-PCR法を行った。研究代表者が行った予備実験と同じくSYBR Greenと特異的なプライマーを用いたインターカレーター法によって、TRPM2及びGSK3BのmRNAの発現量を定量化した。仮説通りに、TRPM2は、LiCl投与後、経時的、LiCl濃度依存性にその発現量が低下した。しかしながら、TRPM2の発現量が低い群を中心として、測定値のバラツキが大きかった。条件検討を試みるも、測定値は安定しないため、プライマーペアだけの設定よりも配列特異性を高める事ができ、また、低発現遺伝子測定の際のバラツキを低減できるMGBプローブ法によるリアルタイムRT-PCR法へと変更した。MGBプローブ法に変更したところ、発現量が低い群における測定値のバラツキは軽減した。再度、TRPM2及びGSK3BのmRNAの発現量を定量化した。PCR法の変更、条件検討を行ったため、予定よりも時間を費やしてしまったが、経時的、LiCl濃度依存的なTRPM2 とGSK3β の発現変動を確認できただけでなく、リチウム濃度の最適化も行うことができた。現在、TRPM2 とGSK3βのタンパクレベルでの発現変動及び活性を確認するために、ウエスタンブロット、ELISA法を行っているところである。また、shRNA ベクターを使って、GSK3βの発現が安定にノックダウンしているU-87MG 細胞(以下GSK3βLOW細胞)株を作成している。細胞の継体日数を同等にしたいため、条件検討済みのTRPM2 を標的とするshRNA ベクターを導入し、TRPM2LOW細胞株も再度作成中である。
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Strategy for Future Research Activity |
速やかに、タンパクレベルでのTRPM2 とGSK3βの発現変動及び活性の確認を行う。また、TRPM2LOW細胞株とGSK3βLOW細胞株を使って、TRPM2とGSK3βの相互関係(クロストーク)を確認する。 双極性障害特異的なTRPM2バリアント(TRPM2-1456Lys)の生物学的意義を同定するために、研究代表者が以前に構築したFlag tag付のTRPM2発現ベクターとQuikChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit (STRATAGENE) を使って、TRPM2-1456Lys発現ベクターを構築する。この発現ベクターをU-87MG細胞に導入し、この双極性障害特異的なTRPM2-1456Lysバリアントが安定に発現する細胞株を作製する。その上で、①TRPM2とGSK3βの相互関係(クロストーク)、②U-87MG細胞における最適化されたリチウム濃度(1.0 mM)といった結果を用いて、以下の実験を行い、双極性障害特異的なTRPM2-1456Lysバリアントの機能解析を行う。1)1.0 mM LiCl(期間:0, 1, 3, 7日)投与した際のTRPM2-1456Lys及びGSK3βの発現変動をリアルタイムRT-PCR、ウエスタンブロット及びELISA法を用いて定量的に検証する。2)1.0 mM LiCl(期間:0, 1, 3, 7日)投与した後、蛍光プローブFura2AM(同仁化学)を使用して、H2O2による酸化ストレスを負荷した際の細胞内カルシウム動態を測定する。3)細胞の生存率をMTT法によって測定する。 研究が当初計画どおりに進まない時は、研究協力者らから支援を頂きながら、年度内に上記研究計画を遂行していく。得られた結果は、取りまとめて国際学会で発表を行い、論文として雑誌上でも発表を行う。
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