2012 Fiscal Year Annual Research Report
食細胞の時計システムに着目した歯周パラインフラメーションの脳炎症誘導機序の解明
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24890161
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
岡田 亮 九州大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (70633105)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 歯周パラインフラメーション / 脳炎症 / 食細胞 / 体内時計 |
Research Abstract |
近年、アルツハイマー病や認知症といった学習、記憶障害の発症や進行と歯周病との関連性が指摘されており、歯周病の特徴である口腔内での慢性炎症状態(パラインフラメーション)が認知機能低下に関わる可能性が示唆されているが、その詳細な機構には不明な点が多い。そこでまず歯周病モデル動物の確立とその認知機能解析を試みた。マウスに歯周病原因菌を局所投与することにより歯周病を惹起させた結果、下顎歯槽骨の破壊および歯周組織における炎症性サイトカインの発現が確認され、さらに大脳皮質と海馬においても炎症性サイトカインが発現しており、その産生細胞はミクログリアであることが確認された。末梢組織での慢性炎症が認知機能に及ぼす影響について、先行実験として関節炎モデルラットを使用して解析したところ、関節炎を誘導した中年ラットでは、記憶の細胞レベルでの基盤として考えられている海馬LTPが有意に低下していることが明らかとなった。以上より、歯周組織を含む末梢組織での慢性炎症が認知機能低下をもたらすことを確認できた。 一般に、歯周病時の炎症は歯周病菌に対して食細胞などの免疫担当細胞が歯肉組織で過剰反応することで悪化する。これまでに、マクロファージ等の食細胞の活動は体内時計の制御を受け、日内変動を示すことが明らかとなっており、体内時計による食細胞機能の制御が歯周病の進行および認知機能低下に関わっている可能性がある。そこで、歯周病罹患マウスの歯周組織に局在する食細胞の機能も体内時計による制御を受け、日内リズムを示すのか調べた。歯周病菌を注入後、歯周組織よりマクロファージを回収し、炎症性サイトカイン遺伝子発現レベルを定量したところ、これらの発現量は日内変動を示したことから、歯周病罹患時の歯周組織に局在する食細胞の機能も体内時計による制御を受けている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、1.歯周病モデル動物における病態の日内リズム解析および2.歯周病モデル動物における歯周組織に局在する食細胞機能の日内リズム解析を行う計画であった。まず、1.歯周病モデル動物における病態の日内リズム解析として、歯周病病態と歯周病モデルマウスの認知機能の経時的解析を行った。マウスにPorphyromonas gingivalisを局所投与して歯周病を惹起させた結果、マイクロCTでの解析で下顎歯槽骨の破壊が認められ、歯周組織においてIL-1βやTNF-αの発現が確認された。さらに大脳皮質におけるIL-1βやTNF-αの発現程度をウエスタンブロッティングで調べると、歯周病菌投与により発現量が増大した。免疫組織化学的手法によりこうした炎症性サイトカインの産生細胞を検討した結果、ミクログリアであることがわかった。次に、歯周病モデルマウスの認知機能の解析を試みたが、以上のような病態変化を示すのは病原菌を投与したマウスのうち2割に留まり、効率的な解析が困難であったため、先行実験として関節炎モデルラットの認知機能解析を行った。その結果、関節炎を誘導した中年ラットでは、記憶の細胞レベルでの基盤として考えられている海馬LTPが有意に低下していることが明らかとなった。 2.歯周病モデル動物における歯周組織に局在する食細胞機能の日内リズム解析では、歯周組織のマクロファージについて解析を行った。歯周病菌を注入して10日後、20日後の歯周組織よりマクロファージを回収し、il-1β、il-6、il-12、TNF-α等の炎症性サイトカイン遺伝子のmRNA発現レベルをリアルタイムRT-PCRにて経時的に定量したところ、これらの発現量は日内変動しており、歯周病罹患時の歯周組織に局在する食細胞の機能も体内時計による制御を受けている可能性が示唆された。 以上より、研究はおおむね計画通りに進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
歯周組織に局在するマクロファージ同様、歯周病時には脳の食細胞であるミクログリアの機能も体内時計による制御を受け、認知機能低下に大きな影響を与えている可能性が考えられる。そこで平成25年度は、歯周病モデル動物における脳ミクログリア機能の日内リズム解析として、1.脳内におけるサイトカイン発現パターンの経時的解析、2.脳ミクログリアの機能の日内リズム解析、そして3.脳ミクログリアの機能制御に関わる遺伝子発現レベルの日内リズム解析を行う。1.脳内におけるサイトカイン発現パターンの経時的解析では、歯周病モデルマウスにおけるサイトカインの発現レベルをウエスタンブロッティングにより経時的に定量し、歯周病時のサイトカイン発現パターンが日内でどのように変化するか調べる。2.脳ミクログリアの機能の日内リズム解析では、歯周病モデルマウス脳内よりミクログリアをmagnetic cell sorting法により単離し、ミクログリアにおける時計遺伝子(Pers、Crys、CLOCK等)およびサイトカイン遺伝子のmRNA発現レベルをリアルタイムRT-PCRあるいはウエスタンブロッティングにて経時的に定量する。また、ビーズやザイモサンといった標的を用いたミクログリアの貪食活性の測定を行い、その活性が日内変動を示すか検討する。3.脳ミクログリアの機能制御に関わる遺伝子発現レベルの日内リズム解析では、歯周病モデルマウスよりミクログリアを回収し、炎症性サイトカイン産生あるいは貪食活性に関わる遺伝子のmRNA発現レベルをリアルタイムRT-PCRで経時的に解析し、日内リズムを調べる。 また、マウスへの歯周病発症率を向上させ、効率的な解析が可能となるよう検討を継続的に行う。
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