2012 Fiscal Year Annual Research Report
シミュレーション技術を活用した災害時の健康危機管理演習システムの開発
Project/Area Number |
24890294
|
Research Institution | National Institute of Public Health |
Principal Investigator |
石峯 康浩 国立保健医療科学院, 健康危機管理研究部, 上席主任研究官 (40450259)
|
Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
|
Keywords | 危機管理 / 災害支援 / 情報共有システム / 火山噴火 / シミュレーション工学 |
Research Abstract |
平成24年度は、本研究が目標としているリアリティーのある状況設定の中で自治体(特に医療・保健関連の組織)における危機管理担当者が災害対応の演習を実施できる情報支援システムのフレームワークを構築するため、ワールドワイドウェブ上の地図表示システムに避難所や病院等の位置を災害要因の分布とともに表示し、災害の全体像を把握できる実用的なソフトウェアを作成した。この表示システムでは、地図の左右に表示した避難所ならびに病院の一覧から位置情報を取得したい施設を選択することで、位置と住所、電話番号等の詳細情報が表示できるようになっている。インターネットの検索機能を組み込むことで、一覧にない任意の関係施設(市役所や高齢者施設等)の位置情報も取得できる機能も加えた。さらに、試験利用をしていただいた保健医療従事者等からの要望が多かった保健所管轄や二次医療圏の区分も表示できるよう画像データの整備も行った。 一方、本情報支援システムで火山災害を想定した図上演習を行うための物理モデルの開発においては、本年度は溶岩流シミュレーションを中心に作業を進めた。富士山のハザードマップで利用されている溶岩流シミュレーションモデルについて、ハザードマップ検討委員会で指摘されている問題点を改良することで、簡便かつコンパクトな計算で、できる限り現実的な現象が再現できることを目指した。その結果、従来のモデルでは、仮想敵な水平面上で溶岩流シミュレーションを行った場合、計算格子の配列方向では、それに45度ずれる方向よりも約1.3倍程度、速度を大きく見積もり、点源から供給される溶岩がひし形の分布を示すという不適切な結果を導くことになる。本研究における検討において、この結果を導く計算手法の問題点を見出すことに成功し、その回避方法も提案することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度において、健康危機管理研修に実際に利用可能な情報支援システムを稼働できる段階にまで到達することができ、しかも、火山災害の主要因の一つである溶岩流シミュレーションにおいてこれまで長年にわたって問題とされてきた計算手法の欠点を改良する手法も見出すことができたため、本研究課題は、これまでのところ、おおむね順調に進展しているとみなすことができる。 情報支援システムに関しては、実際、平成25年1月に国立保健医療科学院で開催された「健康危機管理研修(高度編)」ならびに同2月に国立精神・神経医療研究センターで実施された「災害時精神保健医療指導者情報支援システム演習」にて、試験的に研修生らに利用していただき、その操作性や情報把握の容易さ等について、おおむね好意的なコメントをいただくことができた。 また、2004年に公表された富士山のハザードマップで示されている災害要因を情報支援システムに組み込む作業もすでに終了しており、現状の富士山噴火の被害想定を表示しながら避難所や病院の危険度を検討するという形であれば、すでに十分、学習効果の高い演習が可能なレベルに到達している。この内容については、平成25年5月に開催予定の地球惑星科学連合2013年度大会の「火山防災の基礎と応用」のセッションにて発表する予定である。 溶岩流シミュレーションの改良案に関しても、平成24年10月に開催された日本火山学会において発表し、多くの研究者から好意的な反応を得ている。平成25年度内には査読付きの論文として公表できるよう、現在、準備を進めている段階であり、こちらの進展状況もほぼ本研究課題の計画に沿ったものとみなすことができる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、富士山噴火を想定したモデルケースにおいて、昨年度までに構築した地図表示システムに、現在、改良ならびに簡素化を進めている溶岩流シミュレーションの計算モデルを組み込んだ情報支援システムを完成させる予定である。 同システムを研究代表者が所属する国立保健医療科学院の健康危機管理研修等で実際に試験利用し、さらに操作性が高く、情報把握が容易なものに洗練化させていく予定である。また、火山災害要因の可視化手法にも工夫を凝らし、従来の紙ベースのハザードマップよりも実用性の高い新しいスタイルのウェブ版ハザードマップとしての標準化も目指す予定である。 さらには、富士山のハザードマップが作成された際に検討委員会の報告書の中で指摘されていた溶岩流モデルの欠点を改良する手法の開発に昨年度中に成功したため、本年度は、その手法の有用性を十分に検討した上で、情報支援システムに組み込んで利用できるように開発を進める予定である。このようにすることで様々な状況を想定した演習が可能になる上、実際に富士山で火山噴火が発生した際にも時々刻々変化する状況を即座に情報支援システムに組み込んで危機管理担当者の意思決定の支援に活用することが可能となる。 また、昨年度中には検討があまり進められなかった人間や社会の脆弱性に基づいたリスク評価という観点での計算パラメータの導入検討に関しても、本年度後半には本格的に取り組む予定である。特に、火砕流ならびに火山ガスの拡散を組み込み、火山現象の多様性を十部に反映させたシステムに仕上げる予定である。
|