2012 Fiscal Year Annual Research Report
雌雄エピゲノムの非対称性が制御する胚発生機構の解明~不育の分子メカニズムに迫る~
Project/Area Number |
24890300
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Research Institution | National Research Institute for Child Health and Development |
Principal Investigator |
福田 篤 独立行政法人国立成育医療研究センター, その他部局等, 研究員 (00638091)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | エピゲノム / 初期胚 / トランスクリプトーム / リプログラミング / 生殖 / 全能性 |
Research Abstract |
受精から始まる発生に伴う細胞の分化は、遺伝的要因を伴わないエピジェネティック修飾に付随したダイナミックな遺伝子発現変化により完遂される。受精直後の前核期では卵子、精子由来のゲノムは非対象なエピジェネティック修飾状況にある。雌雄エピゲノムの非対称性はインプリント遺伝子を含む胚の発生に必須な遺伝子の発現量を調節する要因である。本研究では、エピゲノム修飾の雌雄非対称性により制御される因子を同定し、胚発生に致命的な影響を及ぼす因子/遺伝子群を網羅的に同定する。エピゲノム非対称性の崩壊が及ぼす影響を胚発生能試験より評価し、原因不明不育症の根本原因を遺伝子発現レベルだけでなく,エピジェネティックな観点で捉えることを目的とした。 平成24年度は,雌雄エピゲノムの非対称性を破綻させる遺伝子の同定に成功した。ある遺伝子発現抑制型修飾を受精胚で発現させると,胚は正常に胚盤胞まで発生するが,遺伝子レベルでは複数の複数の遺伝子が発現異常を示した。この胚における特性を大規模な定量的PCR法により1個体レベルで解析した結果,ばらつきは生じるものの,確実に特定の遺伝子群が破たんしていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
受精直後の雌雄エピゲノムの非対称性を示す因子は,現在までに4つ程度同定されている。しかし,これらの因子を消失させる方法として、遺伝子欠損法が確実であるものの膨大な時間を要する。簡易的な方法としてRNAiを利用した一過的に遺伝子の発現を抑制する方法もあるが,この場合タンパク質の代謝を考慮するため,卵細胞の加齢が伴い正常な評価が困難になる。そこで,本研究では対象とする因子に対し拮抗する作用のある遺伝子を強制発現させる系の構築を試みた。in silico法により,おおよその目星をつけた後,複数の因子を導入し,発生能や遺伝子発現によりその効果を評価した。その結果,遺伝子X(仮名)を導入した場合,受精後のエピゲノムの非対称性が崩壊し,特定の遺伝子群の発現崩壊が確認された。この結果は,当初複数ある候補因子からシステム的に解析できる系を構築できたことが研究を発展させたと考えられる。現在,これらの内容を論文にまとめており,6月中には国際誌への投稿を考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、雌雄エピゲノムの非対称性が破綻した胚を作出し、その発生能および発現崩壊遺伝子群の同定を試みる。エピゲノム破綻胚を原因不明不育症のモデルとして捉えることで、着床前期における雌雄エピゲノムの非対称性が全能性獲得にもつ生物学的意義を解明する。昨年度からの研究により、雌性前核特異的な転写抑制型のエピゲノム修飾を除去する遺伝子の同定(仮名:遺伝子X)に成功した。この遺伝子Xが強制発現された胚は、着床前期では、一見正常な胚発生を遂げているが、一部の遺伝子群では発現亢進、抑制が生じていることが明らかとなった。本年度は、これらの胚を用いて以下の解析を行う予定である。 1)遺伝子Xを強制発現した胚の体外、及び体内発生能を評価。2)免疫蛍光染色法を用いた遺伝子Xを強制発現した胚における、エピゲノム修飾解析。3)RNA-FISH法を用いた遺伝子Xを強制発現した胚における多能性関連遺伝子群の発現状態解析。4)網羅的定量的PCR法を用いた遺伝子Xを強制発現した胚における特性解析。 また、興味深いことに、遺伝子Xは胚性幹細胞(ES細胞)では、著しい発現抑制されていることが明らかとなった。そこで、本年度は初期胚発生で全能性獲得に関与するエピゲノムの非対称性の役割だけでなく、ES細胞における遺伝子Xがもつ多能性維持機構にも言及したいと考える。次世代シークエンサー等を用いることで、遺伝子Xの特性解析もゲノムワイドに行うことも予定している。これらの成果は、本年度中に国際誌への論文発表を目標とする。
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