2012 Fiscal Year Annual Research Report
「影写」における筆跡についての発展的研究-日比野五鳳の書をもとにして-
Project/Area Number |
24904014
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
和田 幸大 東京大学, 史料編纂所, 技術専門職員
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2013-03-31
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Keywords | 影写 / 筆跡 / 日比野五鳳 |
Research Abstract |
本研究は、「影写」(敷き写し)技術の向上および筆跡論を発展させることを目的とした研究である。遂行するにあたり、優れた「臨書」(見取り写し)作品を遺し、国や公的機関でも認められた書家・日比野五鳳(1901~1985)の筆跡を分析した。 実現するため進めた研究概要は以下の通りである。(1)日比野五鳳の臨書のデータ収集、岐阜県神戸町「日比野五鳳記念美術館」での調査を行った。(2)臨書作品および対象とした古文書をスキャナで読み込み、画像処理ソフトにて文字の切り出し作業を行った。(3)(2)に情報を付与し、画像データとして取り込みデータを集積した。(4)(3)をもとに、日比野五鳳の臨書作品と対象とした古文書とを比較検討した。(5)拙論「古文書の筆跡のとらえ方とその着眼点」において試みた「文字」「連綿」「行」「一紙面」での分析を行った。 一紙面の構成や墨量、線の太細・抑揚などの点では精密に写している事が明確になった。しかし、文字の細〓・隣り合う行との位置関係は、忠実に写しきっていない事が判明した。書家の「臨書」と歴史学における「写」では本来目的が違うため、同列に扱うのは的確でないともいえる。しかし、原本と同等の高いレベルの"写し"を作った点は看過できなく、日比野五鳳の古文書に対する取り組みと、どういう点に留意し臨書がされたかについて考察をした。調査や出版物記載の書論等分析の結果、おそらく、墨線のような視覚的部分だけでなく、古文書からは物理的には見えない執筆時の状態まで洞察していたのではないか。具体的にいえば、それは運筆しながらの「筆の角度」や「体勢」だったであろうという結論に至った。これらは、経験や勘などといった主観で論じられることが多いが、他分野の研究方法も取り入れ科学的手法で解明していくべきであり、今後の新たな課題が明らかになった。これらが忠実に再現できれば、「影写」はさらに原本に肉迫した複本となり、歴史学への寄与も期待ができる。
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