2013 Fiscal Year Annual Research Report
時空階層性の物理学 : 単純液体からソフトマターまで
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25000002
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 肇 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (60159019)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒木 武昭 京都大学, 理学研究科, 准教授 (20332596)
宮崎 州正 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (40449913)
古川 亮 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (20508139)
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Project Period (FY) |
2013-04-26 – 2018-03-31
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Keywords | 水の熱力学異常 / 液体・液体転移 / ガラス転移 / 結晶化 / 非線形流動 / ソフトマター / 動的結合 |
Research Abstract |
2013年度に大きな進展が見られた研究実績について以下に記す。1. 水の物理に関して : (1)密度異常に代表される水の熱力学的異常の起源について数値シミュレーション研究を行い、以前に我々が提唱した水の二状態モデルを支持する微視的な構造的証拠を明らかにすることに初めて成功した(田中G, Nature Commun. 5, 3556 (2014))。(2)水の結晶安定性の詳細な検討により、常圧付近に熱力学的には準安定であるものの、力学的には安定な新たな結晶相(Ice 0と命名)を発見し、氷の結晶化は、従来の常識に反し、I型の氷が直接形成されるのではなく、上記のIce 0がまず核形成し、それがI型の氷に変換していくことを発見した(田中G, Nature Mater. 印刷中)。2. 液体・液体転移に関して : (1) 14種類の水溶液系において、液体・液体転移現象を発見し、その普遍性を示すとともに、純粋な水における液体・液体転移の存在を示唆した(Nature Commun. 4, 2844 (2013))。(2)トリフェニルフォスファイトにおいて見られる転移現象について光散乱測定を行い、長年論争となっていた液体・液体転移説と微結晶説において、前者が有力である実験的証拠を得た(田中G, Phys. Rev. Lett. 112, 125702 (2014) ; Editor's suggestion)。3. ガラス転移に関して : (1)過冷却液体に長い寿命を持つ局所安定構造が形成されることを複数の液体系で見出した(田中G, Royall)。(2)過冷却液体の動的不均一性と低振動の固有モードの間に深い関係が存在することを明らかにした(小貫G)。(3)過冷却液体の示す動的不均一性に関する多次元相関分光法の応用、ガラス転移の平均場描像の二大候補と言われるモード結合理論とレプリカ理論を統一的に扱う理論の開発、さらにはその臨界性、ジャミング転移との関連に関しても興味深い成果を得た(宮崎G)。4. 結晶化に関して : 既述の水の結晶化の成果以外にも、長年未解明であった剛体球コロイドの結晶核形成頻度の実験と数値シミュレーションの間の10桁以上の不一致の原因が、重力による沈降の影響である可能性を初めて指摘した(田中G)。5. 非線形流動に関して : 過冷却液体の単純せん断流れのもとでの非線形流動の起源を微視的レベルで明らかにすべく数値シミュレーションによる研究を行っている(古川, 田中G)。6. ソフトマターに関して : (1)臨界カシミア効果に対する流れの効果の解明に初めて成功した(田中G, 古川, Phys. Rev. Lett. 111, 055701 (2013))。(2) DNA鎖がグラフトしたコロイドの拡散における高分子内部モードと重心拡散の結合を明らかにした(田中G)。(3) 2成分流体系のドロップレット型相分離の粗大化メカニズムに関して、30年以上正しいとされてきたブラウン運動に伴う確率的な融合合体機構ではなく、マランゴニ効果に基づく決定論的な機構が重要であることを初めて明らかにした(田中G)。(4)自走性のあるコロイドの運動における流体力学的効果の重要性を示すことに成功した(古川)。(5)高分子電解質の電気浸透効果、液晶中のコロイドの運動についても興味深い結果を得た(荒木G)。(6)これまで取り扱いが極めて困難であった膜系における流体力学的効果を取り入れた、新たな粗視化シミュレーション法を開発することに成功した(古川, 田中G)。以上のように液体・ソフトマターの時空階層性に関していくつかの基本的な問題を解明することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
まず、水の研究について特に大きな進展があったので、以下に述べる。前々項で記述の通り、密度異常に代表される水の熱力学異常の微視的な起源を初めて明らかにすることに成功した。具体的には、「水の第二近接粒子の持つ並進秩序」が、密度と結合する秩序変数となり、水の局所構造化の鍵を握ることを初めて示した。また、その局所構造化は、水の熱力学異常、水の均一核形成には、大きな過冷却度が必要となるとの鍵を握っていることを明らかにした(Nature Commun. 5, 3556 (2014)に発表)。また、熱力学的には準安定であるものの、力学的には安定な新たな結晶相(Ice 0と命名)を発見し、氷の結晶化は、従来の常識に反し、我々が目にするI型の氷が直接形成されるのではなく、このIce 0がまず核形成し、それがI型の氷に変換していくことを発見した。この新たな氷はその構造に五員環を内包し、上述の水の局所秩序構造と構造的整合性を持つことが、核形成障壁を下げる要因であることも明らかとなった。この発見は、これまでの水の氷への結晶化の常識を覆すばかりでなく、長年未解明であった氷の均一核形成線の相図上の位置について、明確な説明を与えるものであり、高層大気での氷の形成など、自然現象の理解へ大きく貢献するものと期待される(Nature Mater. 印刷中)。 また、14種類の水溶液系において液体・液体転移現象を発見し、その普遍性を示すとともに、純粋な水における液体・液体転移の存在を示唆した(Nature Commun. 4, 2844 (2013))。また、トリフェニルフォスファイトにおいて見られる転移現象について時分割光散乱測定を行い、長年論争となっていた液体・液体転移説と微結晶説において、前者が有力である実験的証拠を得た。この成果は、Phys. Rev. Lett. 112, 125702 (2014)に掲載され、Editor's suggestionに選定されるとともに、Synopsisも掲載された。以上のように研究は極めて順調に進んでいると自負している。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように、本研究課題はこれまで極めて順調に遂行されている。以下それぞれのテーマについて今後の推進施策を述べる。1. 水系に関して : 局所安定構造の同定、新たな準安定な氷の発見などの成果があったが、これらの成果は、Si、Geなどのテトラヒドラル構造を形成する傾向を持つ他の水型液体においても、局所安定構造形成がその熱力学的、動力学的挙動に重要な働きを演じていることを示唆している。そこで、2体、3体相互作用の寄与を系統的に変えることが可能なモデルを用いることで、これらの重要な原子液体について普遍的な描像を描くことを目指す。2. ガラス転移に関して : 上述のモデルは、本テーマではフラストレーションの度合いを系統的に変えることが可能なモデルとして利用できると期待され、そのガラス形成能への影響、これらの液体の動的な不均一性の構造的起源を探る予定である。これらは、ガラス転移に伴う遅いダイナミクスの起源を探る上で決定的な情報を提供してくれるものと期待している。また、ガラス転移点以下では、ガラスは非平衡状態におちいるが、そこで非常に遅い平衡化のプロセス、すなわち、エイジング現象を示す。このようなエイジングの過程で系が長時間極限で行きつく先は長年論争の的になってきたが、我々は、ガラス転移からあまり遠くない温度領域では、平衡過冷却液体に行きつくと考えている。この点を明らかにすべく実験・シミュレーションの両面から研究を行う予定である。さらに、我々の描像が正しければガラスの状態は、構造秩序変数の相関長で一意的に決まると考えられ、エイジングの過程を用いることで、この点を検証したいと考えている。田中G、宮崎G、古川G、小貫Gの連携により、ガラス転移の理論的な理解も目指す予定である。3. 液体・液体転移に関して : 初年度の成果を受け、今後は、液体・液体転移を支配する秩序変数の微視的な同定を目指す。具体的には、広角・小角X線散乱、ラマン・赤外分光を用いて局所安定構造の実験的な証拠を得ることだけでなく、計算機シミュレーションによる微視的な構造の同定も目指し、局所安定構造の特定に加え、その協同的形成の起源を明らかにしたい。また、原子間力顕微鏡による局所安定構造の直接観察にも挑戦したいと考えている。4. 過冷却液体からの結晶化の微視的過程に関して : 共焦点顕微鏡を用い、コロイドの結晶化の素過程を研究する予定である。剛体球コロイドに加え、荷電コロイド系の結晶核形成に関しても実験的研究を行い、過冷却液体で形成される前駆的な秩序とその役割について明らかにするとともに、荷電系におけるイオンの役割について、シミュレーションを用いて明らかにしたいと考えている。これらは、タンパク質の結晶化機構解明にもつながると考えている。また、結晶の融解機構にも焦点を当て研究を行う予定である。5. 非線形流動に関して : 分子動力学的シミュレーションにより、過冷却液体の示すシアシニング現象の微視的な起源を探るとともに、マクロな現象論的な記述との関係を明らかにしていく予定である。また、ソフトマターの非線形流動では、流体力学的相互作用が重要な働きを担っていると考えられ、流体粒子ダイナミクス法を用いて、その役割を明らかにするとともに、粒子間の摩擦を導入することで、液体に分散された粉体系の示す非線形流動、特にシアシックニング現象の機構の解明を目指したい。液体に分散した粉体の基本問題であるダイラタンシー、液状化の問題にも実験・シミュレーション・理論の面から迫りたいと考えている。これらの問題は田中G、荒木G、古川Gが協力して取り組む予定である。6. ソフトマターに関して : 荷電コロイド、荷電高分子系の構造形成、電場下でのダイナミクスに関して実験とシミュレーションの両面から研究を行う予定である。また、膜系における流体力学的相互作用の効果を探るために流体粒子ダイナミクス法を膜系に拡張した方法を構築しており、これを用いて多重膜系における流体力学的効果という未踏の問題に挑戦する予定である。タンパク質の結晶化においては、これまで考えられてこなかった塩の濃度場とタンパク質の濃度場の結合についても研究を進めており、ソフトマターの構造形成における多自由度間の結合という観点からこの問題に迫る予定である。タンパク質のフォールディングにおける流体力学的効果の役割に関しても主にシミュレーションにより明らかにする予定である。各研究テーマにおいて、研究分担者、連携研究者の間でコミュニケーションは緊密にとられており、協力しながら液体・ソフトマターにおける時空階層性に迫るべく成果を上げていきたいと考えている。
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Research Products
(63 results)