2016 Fiscal Year Annual Research Report
時空階層性の物理学 : 単純液体からソフトマターまで
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25000002
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 肇 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (60159019)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒木 武昭 京都大学, 理学研究科, 准教授 (20332596)
宮崎 州正 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (40449913)
古川 亮 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (20508139)
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Project Period (FY) |
2013 – 2017
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Keywords | 時空階層性 / 単純液体 / ソフトマター / 協同的機能発現 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、単純液体ならびにソフトマターを対象として、液体の基本的性質にかかわる以下に示す6つの未解明問題について研究を行ってきた : (1)水型液体の熱力学・運動学的異常の解明、(2)単一成分液体の液体・液体転移現象の起源解明とその応用、(3)ガラス転移現象の解明、(4)液体の階層性と結晶化の素過程(結晶核形成)の関係の解明、(5)液体・ガラス状物質の非線形流動・破壊現象の解明と制御、(6)液体が流体力学的相互作用を介してソフトマター・生体系の動的挙動に及ぼす影響の解明。本年度の主要な成果は、(1)に関しては、微視的な構造秩序変数を新たに導入することで、水の静的・動的な異常性を、階層性を考慮した新たな2秩序変数モデルにより統一的に説明できることを明らかにした。また、(2)に関して、高速DSC測定により、液体・液体転移の可逆性、二つの液体の共存の直接的な実験的証拠を明確に示すことに成功した。(3)に関しては、アモルファス物質において、弾性率の空間不均一性に従来知られていなかった長距離相関が存在し、それによりフォノンが従来の予測を超えて過剰に散乱されることを発見した。その他にも、単成分系における4相共存(Gibbsの相律の破れ)を発見した。これは、従来信じられてきたGibbsの相律が、特殊な場合に破れ得ること、さらには、この4相共存においてはレバー則が成立しないため、各相の分率が一意的に決まらず、相間の体積分率に自由度が生まれるという興味深い特性も明らかとなった。結晶化の機構においても、液体の時空階層性が、結晶化の運動学的経路の選択に決定的な役割を演じていることを示している。このほかの研究テーマについても、研究は順調に進んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
水の静的・動的な異常性の起源については、密度の異常が認識されて以来100年以上にわたり論争の種になってきた。我々は、我々が過去に提唱した2秩序変数モデルに新たに階層性を導入することで、により、水の静的・動的異常を統一的に説明できることを見出した。この研究の画期的な点は、現象論レベルを超え、微視的観点から2状態の存在を明らかにした点にあり、乱雑な液体構造から、局所的に安定な構造を正確に抽出することを可能にする新たな微視的構造秩序変数の導入により、初めて可能となったことを強調したい。この発見により、水の異常性の起源をめぐる長年の論争に決着をつけられるものと期待している。また、これまで分子性液体の液体・液体転移に関しても、従来この特異な現象の説明として有力なもう一つのシナリオと考えられてきた、微結晶説を完全に否定することができた。我々は、この成果により、液体・液体転移の存在の確実な証拠が得られたことで、この興味深い現象の研究、他の液体における液体・液体転移の探索が今後劇的に進むものと期待している。また、アモルファス物質における弾性率の長距離相関の発見は、低温におけるアモルファス物質の比熱や熱伝導異常という長年の未解決問題に、全く新しい視点を提供するものと期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、多自由度・階層系特有の動的結合と階層を越えた協同的機能発現の基本原理を確立する。即ち、(A)「液体自身が内包する時空階層性と、その水型液体の異常性、液体・液体転移、ガラス転移、結晶化機構の4つのテーマとのかかわり」、(B)「動的対称性の破れと非平衡状態における発展基準の関係」、(C)「異なる階層の自由度が液体の階層性・速度場等を介して、いかに動的に結合し機能が発現するか」という時空階層性を内包した液体の本性、非平衡状態での状態選択の原理、ひいては、自然界における階層的自己組織化とその機能発現のメカニズムの解明を目的として計画された。(A)に関しては、これまで、我々の研究により、水型液体の異常性、液体・液体転移、ガラス転移、結晶化機構の共通の背景に液体の局所構造形成があることが既に明らかになってきた。今後、これを体系化し、従来の液体論とは一線を画した、液体の新たな描像の確立を目指す。(B)に関しては、粘弾性相分離、過冷却液体・アモルファス物質のずり変形下での力学的不安定の間に、共通の物理、保存量の変動に対する輸送係数の動的非対称性が、非平衡状態での時間発展を支配することを現象論的レベルで示すことに既に成功した。今後は、その微視的背景について粒子レベルでのシミュレーションから得られる知見をもとに、考察を進めていく予定である。(C)に関しても、流体力学的相互作用が、系の非平衡過程における運動学的経路、状態選択に決定的に重要な働きを演じることを、コロイドのゲル化、高分子の凝縮転移、液体に分散した自己運動粒子の集団的挙動、荷電コロイドの自己組織化などの研究を通して明らかにしてきた。今後は、特に遅い変形下で現れる液体の非圧縮性が、液体の運動に強い規制を与え、それが、上部階層の運動要素の運動に影響を与えるという普遍的なシナリオの確立を目指す。最後に、生物も含めたソフトマターの最大の特徴は、その時空階層性にあるという認識のもと、階層性の存在そのもの、さらには、階層を越えた自由度の動的な結合が、これらの系の挙動にどのような影響を与えるかについて、統一的な物理描像を描くことを目指す。
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Research Products
(88 results)
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[Journal Article] Water : A Tale of Two Liquids2016
Author(s)
P. Gallo, K. A. -Winkel, C. A. Angell, M. A. Anisimov, F. Caupin, C. Chakravarty, E. Lascaris, T. Loerting, A. Z. Panagiotopoulos, J. Russo, J. A. Sellberg, H. E. Stanley, H. Tanaka, C. Vega, L. Xu and L. G. M. Pettersson
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Journal Title
Chemical Reviews
Volume: 116
Pages: 7463-7500
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Presentation] Origin of water's anomalies2016
Author(s)
Rui Shi, John Russo and Hajime Tanaka
Organizer
Gordon Research Conference 2016, Water & Aqueous Solutions
Place of Presentation
New Hampshire, USA
Year and Date
2016-08-03 – 2016-08-04
Int'l Joint Research
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