2018 Fiscal Year Annual Research Report
時空階層性の物理学 : 単純液体からソフトマターまで
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25000002
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 肇 東京大学, 生産技術研究所, 教授
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Project Period (FY) |
2013 – 2018
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Keywords | 時空階層性 / 単純液体 / ソフトマター / 共同体機能発現 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 水の物理に関して : (1)水の熱力学・動力学異常について研究を行い、両者が構造秩序変数そのものとそれを隣接分子まで空間的に粗視化したものによりそれぞれあらわされることを見出した。これは、両者の起源がともに局所的な正四面体構造形成に起因していることを強く示唆しており、我々の提唱する2状態モデルを強く支持する結果である。(2)また、水とシリカはともに正四面体構造をとるが、ガラス形成能に関しては、両者は極端に異なる性質を示す。その原因が、水における水素とシリカにおける酸素の空間配列の乱れの度合いの相違からきていることを発見した。2. 液体・液体転移に関して : 亜リン酸トリフェニルにおいて、液体・液体転移の可逆性を初めて明らかにするとともに、ダイナミクスを誘電緩和スペクトル測定により実時間追跡することに成功した。その結果は、我々の提唱する二秩序変数モデルの予測と一致した。3. ガラス転移現象に関して : (1)これまで局所的に安定な構造が未知であった、2成分粒子系において、局所的なパッキング能を定量化することで、隠れた構造秩序構造をあぶりだすことに成功し、温度低下とともに、その構造の相関長が動的不均一性の相関長とコヒーレントに成長することを見出した。これは、過冷却液体の示す遅いダイナミクスの背景に構造秩序の発達があるという、我々の提唱するシナリオを強く支持する結果である。(2)ガラス状態にある物質のエイジング、結晶化について研究を行い、固体ガラス状態において進行する遅い過程が、粒子の連続的な運動ではなく、雪崩的な運動により誘起されることを見出した。さらに、その背景に、粒子間の力のバランスにより自己組織的に形成される力鎖のネットワーク構造があることを見出した。(3)ずり流動下で過冷却液体の粘性が減少するいわゆるシアシニング現象の背景に、液体の構造変化があることを明らかにした。特にずりにより引き延ばされる方向の構造エントロピーが、重要な構造指標であることを発見した。4. 結晶化に関して : (1)水の新しい準安定な氷を発見し、氷の各形成において前駆体として働くことを明らかにした。(2)二つの結晶相への結晶化の競合により結晶化が阻害される原因が、その付近で結晶的な回転対称性の破れの度合いが低下し、そのため界面エネルギコストが上がり結晶核形成に対するエネルギー障壁が上がるためであることを見出した。5. 非線形流動に関して : (1)せん断流れ下にある液体の壁面でのスリップの新しい機構を発見した。(2)高密度な粉体が液体中に分散した系において、その動的な挙動が流体に非圧縮性により大きな影響を受けている証拠を見出した。6. ソフトマターに関して : (1)コロイド分散系の相分離を任意パラメータなしに数値シミュレーションにより再現することに成功するとともに、ドメインの粗大化の新しい法則を発見した。(2)多孔質中の相分離のモルフォロジーを決定する物理機構を明らかにした。(3)コロイドの濃厚分散系に存在すると信じられてきた引力ガラス状態が、実はガラスではなく、空間的な不均一性を持つゲル状態であることを見出した。(4)共焦点レーザ顕微鏡による実験により、ゲル化における運動凍結の起源がガラス化の場合と結晶化の場合があることを明らかにするとともに、それを制御している物理因子を明らかにした。以上のように液体・ソフトマターの時空階層性に関して多くの基本的な問題を解明することに成功した。
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Research Products
(76 results)