Outline of Annual Research Achievements |
本年度は, 循環器系に対する生命現象解析プラットフォームの構築を推進した. 得られた主要な成果は以下のとおりである. 1. 血球細胞と血管内皮細胞間の接着タンパクのリガンド-レセプタ結合(分子スケール), 細胞膜・細胞質の固体力学・流体力学(細胞スケール), 同種細胞間・異種細胞間の生化学的相互作用・力学的相互作用を連立する数理・計算モデルを構築し, 循環器系の分子-細胞-組織(細胞集団)間相互作用の解析プラットフォームを構築した. これをマラリアに適用し, 微小循環におけるマラリア感染赤血球の接着現象を再現・解析した(Ishida et al., Sci. Technol. Adv. Mater., 2016). 2. 循環器系の生命現象解析プラットフォームを血小板血栓形成や白血球の接着, がんの血行性転移に応用し, 循環器系の多様な生命現象に展開可能であることを示した(Kamada et al., Microcirculation, in press ; Takeishi et al., Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol., 2016). これを用いて白血球やがん細胞の毛細血管における接着挙動を解析し, これらの細胞は毛細血管において「Rolling motion」ではなく「Bullet motion」となり, P-selectin上においても定常な接着とみなせる速度となることを明らかにした. 3. 消化器系の生命現象解析プラットフォームを構築するため, 胃における食物流動の計算モデルを開発し, 胃壁の蠕動運動と食物撹拌の関係を明らかにした(Berry et al., Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol., 2016 ; Miyagawa et al., Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol., 2016). またゼブラフィッシュ腸内の撹拌・輸送現象を解析するための計算モデルを開発した(Yang et al., J. Theor. Biol., 2017). 4. 平成26年度に実施したマウスの気管上皮細胞における繊毛細胞集団の作り出す流れ場の実験的解析を発展させ, 液体粘度と繊毛運動および流れ場の関係を明らかにした(Kikuchi et al., Ann. Biomed. Eng., 2017). 5. 平成25年度に報告したバクテリア分離チップの開発においで確立した方法論を応用し, 流体力学の理論に基づく微小流路形状の提案, 流体計算による最適形状設計, MEMS技術とPIV法による微小流路実験を統合し, 血漿層厚さを制御できる血液用マイクロチップを開発した(Saadatmand et al., J. Biomech., 2016). 6. これまでに開発してきたカプセルや赤血球の高精度計算モデルを用いて, カプセルのリフト現象や赤血球の沈降現象の詳細を明らかにした(Nix et al., J. Biomech., 2016 ; Matsunaga et al., J. Fluid Mech., 2016).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究は当初の計画以上に進展している. 循環器系に関する主要な研究目標は, マラリア, 血栓症, がんの血行性転移における階層間相互作用を再現・解析するためのプラットフォームの構築であった. 本年度までにこの構築は完了し, 既に平成29年度に実施予定の病態生理現象の解析についても, 微小循環におけるマラリアの接着現象(Ishida et al., Sci. Technol. Adv. Mater., 2016), がんの血行性転移(Takeishi et al., Am. J. Physiol. Heart Circ Physiol., 2016), 血小板血栓(Kamada et al., Microcirculation, in press)を再現・解析することに成功している. 消化器系についても胃の食物流動の計算モデルを基に, 嚥下, 食道, 胃, 十二指腸, 小腸まで消化器系の解析プラットフォームが完成しつつある(Miyagawa et al., Am. J. Physiol., Gastrointest. Liver Physiol., 2016 ; Yang et al., J. Theor. Biol., 2017). 統合ナノバイオメカニクスに基づくヒト生命現象解析プラットフォームの構築はほぼ完成しており, 本格的に, ヒトの生理および病理現象に展開するところまで到達している. これらのことより, 当初の計画以上に進展していると評価している.
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画のとおり, ヒト生命現象解析プラットフォームの構築と病態生理現象の再現・解析を推進する. 具体的には下記の研究項目を重点的に実施する. 1. クライオトモグラフィ法による繊毛分子構造の解析結果(Ueno et al., Cytoskeleton, 2014)に基づく繊毛運動の数理・計算モデルを構築し, これまでに実験的に解明してきた気管繊毛細胞の作り出す流れ場(Kiyota et al., Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol., 2014 ; Kikuchi et al., Ann. Biomed. Eng., 2017)を再現するとともに, 原発性繊毛機能不全症を解析する. 2. バクテリアの数理・計算モデル(Kanehl and Ishikawa, Phys. Rev. E, 2014)をボトムアップ的に応用し, また臓器スケールの数理・計算モデル(Yang et al., J. Theor. Biol., 2017)と連立することで, 腸内フローラを再現し, 腸内の細菌分布を予測することを可能にする. 上部消化管に対しては, 嚥下障害と消化不良(機能性ディスペプシア)に着目し, 消化管運動と食物輸送の関係を統合ナノバイオメカニクスの手法を用いて解明する.
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