Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度までに開発した解析プラットフォームを用い、生理現象から病理現象にいたる幅広い研究課題に取り組んだ。実験と理論、シミュレーションの手法を相補的に結合し、統合ナノバイオメカニクスを推進した。得られた主要な研究成果は以下のとおりである。 1. タイニン分子モーターによって駆動される繊毛軸支の計算力学モデルを構築した。軸支が安定な回転運動を行うためには、タイニン活性の特性時間が重要であることを示した。この結果をスケールアップし、繊毛が作り出すマクロスケールな流れ場も明らかにした。(Omori, et al., J. Biomech., 2017) 2. 毛細管内を流動する赤血球は、後方に渦を形成して血小板などの微小粒子を捕捉することを明らかにした。この成果は、ドラッグデリバリーにおける粒子サイズの選定に有用である。(Takeishi & Imai, Scientific Rep., 2017) 3. 微小循環におけるマラリア感染赤血球の挙動を解析し、細動脈の高い壁面せん断速度では感染赤血球が壁面へ接近できないことを明らかにした。この成果は、臨床において感染赤血球の接着が細動脈よりも細静脈で多く見られることを説明できる。(Ishida, et al., Biophys. J., 2017) 4. アクティブ粒子が固液混相流体中でどのように振舞うかを、理論と数値シミュレーションで解析した。その結果、細胞の遊泳モードによって捕捉・拡散・直進の3つの運動モードが現れることを明らかにした。この成果は、腸内細菌の運動を理解する上で重要である。(Chamolly, et al., NewJ. Phys., 2017) 5. 地中や体内などの入り組んだ環境においても、微生物はデッドエンドで行き詰まることなく、泳ぎで巧みに回避していることを発見した。この成果は、将来的に感染症が広がっていくメカニズムの解明などに役立つと期待される。(Ishikawa & Kikuchi, Proc. Roy. Soc. B, 2017) 6. 心臓血管系中の赤血球の分布を理解する上で、血球の分散・拡散現象を理解することは重要である。この研究では、実験から数理モデルを構築し、実験で観察される赤血球の挙動をランダム ウォーク理論で説明することに成功した。(Chuang, et al., J. Biomech., 2017) 7. モデル生物のゼブラフィッシュを対象とし、消化管内の輸送現象を解析した。前腸部に現れる逆行性嬬動運動は、食べ物を攪拌して消化を促進することを定量的に示した。一方、後腸部の順行性嬬動運動はポンプの役割を果たしていることを明らかにした。(Yang, et al., J. Theor. Biol., 2017)
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