2015 Fiscal Year Annual Research Report
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25000012
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
北村 隆行 京都大学, 工学研究科, 教授 (20169882)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
澄川 貴志 京都大学, 工学研究科, 准教授 (80403989)
平方 寛之 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (40362454)
高橋 可昌 関西大学, 工学部, 准教授 (20611122)
嶋田 隆広 京都大学, 工学研究科, 助教 (20534259)
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Project Period (FY) |
2013 – 2017
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Keywords | single digitナノ / ひずみ集中場 / 破壊力学 / 負荷実験 / その場観察 |
Outline of Annual Research Achievements |
H27年度の研究実績は、以下のように纏めることができる。1. 形状・寸法を力学的にデザインしたシリコン(Si)微小試験体にナノサイズの切り欠きを設けて真空高温熱処理を行い、制御されたナノレベルの微小開口変位を与えて切り欠き底からき裂を発生させることで、single digitナノスケールの応力特異場を有する無加工層試験体の作製に成功した。2. 平成25年度に開発した微小負荷装置を用いて走査型透過型電子顕微鏡(STEM)内その場観察き裂伝ぱ試験を実施し、その挙動をその場観察した。応力特異場の寸法が異なる複数の試験体を用いて同様の試験を実施し、特異場寸法4nmの大きさであっても破壊じん性値は不変であることを明らかにした。3. 応力集中場の特異性がき裂とは異なる切り欠きについてもその先端にsingle digitナノスケールの応力集中場を実現することに成功した。STEM内で切り欠き底からの破壊発生試験を実施し、破壊時の強度を得た。き裂とは異なり、切り欠きの場合には応力集中場の寸法が減少するとともにその破断強度が上昇し、Siの理想強度に漸近することを明らかにした。一方、その先端で応力が無限大に発散するき裂の場合には、き裂先端からほぼ原子一個分の距離の応力値がSiの理想強度に達した際に破壊が進行することを明らかにした。4. 原子レベル解析に基づいて破壊基準に関する検討を実施し、実験結果との比較を行うことで、ナノスケールの応力集中場における一般化された力学的支配法則に関する検討を行った。き裂先端における応力特異場の大きさが2nm以下になる場合には、原子の離散性により連続体仮定に基づく破壊力学的基準が破綻することを明らかにした。さらに、き裂先端の離散場と原子結合が切断される際のエネルギー収支を考慮した新しい破壊基準を提案し、これによつて従来の破壊力学基準が破たんする場合にも、その破壊挙動を記述できることを示した。5. 分子線エピタキシー(MBE)法に基づくナノ構造体作製装置を作製し、無加工層ナノ要素作製のための条件の抽出を実施した。また、無損傷ナノ構造体作製装置を応用し、次年度(平成28年度)の研究対象である異材界面を有するナノ構造体の作製検討を実施した。6. 線形弾性変形を示すSi微小試験体を用いた議論に加えて、非線形弾性変形を示すグラフェンを対象としてその場観察引張破壊試験を実施し、その破壊じん性を得ることに成功した。これらの研究内容は国外からも高い評価を受け、Pan Stanford Publishing社からの依頼により「Fracture nanomechanics 2nd edition」を執筆し、出版に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H27年度の計画は、1. “制御されたsingle digitナノひずみ場を有するナノ試験体の創製”、2. “その場観察微小負荷試験”および3. “原子レベル解析を実行”である。申請時の予定に沿って、分子線エピタキシー(MBE)法に基づくナノ構造体作製装置を開発した。また、ナノ構造体に微小な切り欠きを導入し、開口変位を与えて切り欠き底からき裂を発生させることでsingle digitナノひずみ場を有する試験体の作製を行った。このとき、開口変位量の調整や試験片寸法の縮小のみでは目的とするsingle digitナノひずみ場を取得することに限界があった。そこで、試験片形状を力学的にデザインすることで、制御されたsingle digitナノひずみ場を実現することに成功した。平成25年度に構築した試験システム(走査透過型電子顕微鏡(STEM)+微小負荷装置)を用いて、試験体に対するその場観察微小負荷試験を実施し、single digitナノひずみ場から破壊が進行する様子を観察するとともに、その強度を特定した。試験片と同様の力学状態を有するモデルを作成して原子レベル解析を実施し、実験結果との比較および破壊を支配する力学因子についての検討を行った。特に、き裂先端における離散的な破壊挙動は、一般に厳密な特定が困難であるが、原子系の不安定性を評価する独自手法を用いることでこれを明らかにした。また、この際、き裂先端近傍の離散的な原子挙動を正確に表現するために大規模な行列計算を実施する必要があったが、計算の効率的な並列化や計算環境の最適化等を行い、これを可能とした。以上のように、研究過程において幾つかの問題が発生したが、対策を実施し、研究計画を達成した。研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画に沿って研究を実施する予定である。H28年度の計画は、“特徴的な不均一性を示す異材界面破壊現象への展開”、および、“高精度なハンドリング装置の開発”を実行する。研究を遂行する上で問題点が生じた場合には、適宜対策および代替案を模索し、当初の研究目的の達成を目指す。具体的には以下の内容を実施する。 1. 平成27年度に開発したナノ構造体作製装置を用いて、整合性の良い異材界面を有するナノ構造体を作製する。材料は窒化ガリウム(GaN)と窒化アルミニウム(AlN)である。両者はヤング率が大きく異なることから、その異材界面端では大きな応力集中を生じ、負荷を与えた際には、その応力集中場を起点とした破壊を生じるものと考えられる。シリコン単結晶基板上に, 両者を順次高温エピタキシャル成長させることで、GaN/AlN界面を有する無加工層ナノ双結晶構造体を作製する予定である。異材界面の同定には電子線後方散乱回折法(EBSD)を用い、その後、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray spectrometry : EDX)によって原子レベルでの界面の特定を行う。実験直前にはSTEM観察によって界面の整合性と結晶性を特定する。微小負荷試験装置を用いて、STEM内でその場観察破壊実験を実施する。平成27年度に構築したナノひずみ場における支配力学基盤に基づいて界面破壊現象に対する力学的検討を実施する。 2. 均一材料のナノ構造体とは異なり、異材界面を有するナノ構造体は、形成直後から応力集中を有するため、より精密なハンドリングが必要となる。そこでナノ構造体をハンドリングする専用のナノマニピュレーション装置の開発を予定している。本装置は、多自由度を有するアームで構成され、ビエゾ素子を駆動させることでナノ構造体を機械的に掴むことや、静電気を用いて吸着することができる。 3. 次年度実施するマルチフィジックス特性評価の準備として、大規模解析プログラムを開発する。通常の量子計算法では解析対象サイズに対して計算負荷が指数関数的に増大するため、single digitナノ領域そのものを解析することはできない。そこで、原子軌道の線形結合(Linear Combination of Atomic Orbitals : LCAO)を波動関数の基底とすることで、原子数に対して計算負荷がほぼ線形になるような軽減手法を用いる予定である。一方、材料の電子状態予測の精度がマルチフィジックス特性評価の際に重要となるが、上記手法では基底関数選定やパラメータが材料の電子状態予測の精度に大きく関わってくる。そこで、これらの条件を高精度な第一原理解析や実験結果と綿密に比較・検討し、対象材料に関する大規模量子解析の計算精度と速度の両立を行う。
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