2015 Fiscal Year Annual Research Report
大脳皮質の領野間相互作用を担う神経回路の細胞・シナプスレベルでの機能解明
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25221001
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大木 研一 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50332622)
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Project Period (FY) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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Keywords | 大脳 / 視覚野 / 高次視覚野 / 相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
①軸索の2光子カルシウムイメージングを用いて、マウスの外側膝状体からV1の4層へは方位選択性的な情報はほとんど伝えられないことを示した(Kondo and Ohki, 2016)。外側膝状体の神経細胞にGCaMP6sを導入し、その神経細胞の軸索の活動を、V1の4層で観察した。その結果、4層に入力している軸索は、あまり方位選択性を持たないことがわかった。従って、マウスのV1の4層の神経細胞の方位選択性は、ネコと同様、大脳皮質内の回路によって形成されていることが示唆された。 ②マウスの全脳をマクロレベルで機能マッピングする技術を開発し、高次視覚野の外にも視覚刺激に反応する領域があることを見出した(Murakami et al., 2015)。全脳の興奮性細胞にカルシウム感受性タンパク質を発現するマウスと、広域蛍光顕微鏡を用いて、大脳半球全体を含む広範囲で機能マッピングを行い、視覚刺激に対して応答を示す領野を調べた。その結果、一次・高次視覚野だけではなく、脳梁膨大後部皮質と前帯状皮質が視覚応答を示すことを見出した。 ③②と同様の方法を用いて、全脳の領野間相互作用をマクロレベルで示した(Matsui et al., in press)。マクロレベルでの領野間相互作用は、従来機能的fMRIなどを用いて示されてきたが、血流変化を測定するものであり、神経活動との対応が不明であった。神経活動と直接相関するカルシウムシグナルを用いて、安静時の領野間の相互作用を調べた。これにより、血流変化による相互作用がカルシウムシグナルによる相互作用と対応していることが示された。さらに、安静時の自発活動は、脳全体に波及する波として発生していること、その波の各時点でのパターンが領野間相互作用のパターンと類似していることが見出され、領野間相互作用のパターンは、自発活動の波に埋め込まれていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複数の領野への並列的な情報分配のメカニズムの解明について、V1から背側経路、腹側経路への情報分配については、既に解決し論文として公表した。さらに、同じ方法を用いて、マウスの外側膝状体からV1の4層へは方位選択性的な情報はほとんど伝えられないことを示した。マウスのV1を方位選択性形成のモデル系として使うことが出来るかどうかを確認する非常に重要な実験であり、高く評価されている。 また、大脳半球全体を含む広範囲で機能マッピングを行う方法を開発した。この方法は、ヒトのfMRIのように、マウスの大脳皮質の機能解析に広く使われる方法になると思われる。この方法を用いて、背側経路、腹側経路以外に、頭頂葉の内側部に位置する高次視覚野(PMなど)が第3の経路に属していることを見出した。この経路は、形と動きの両方の情報をRS野に伝え、空間ナビゲーションに役立っていると考えられる。このように広域機能マッピングにより、マウスの高次視覚野の機能分化の理解が大きく進んだ。 またこの方法を用いて、マクロレベルでの領野間相互作用の理解が進んだ。安静時の機能的相関は、ヒトのfMRIでは、領野間相互作用を調べるために広く使われているが、神経活動との対応が不明であった。神経活動と直接相関するカルシウムイメージングと血流のイメージングを同時に行うことにより、血流変化による領野間相互作用がカルシウムシグナルによる相互作用と対応していることが示された。このことは、fMRIで使われている安静時の機能的相関の神経基盤を明らかにするものである。 このように、マウスの高次視覚野の機能分化、情報分配のメカニズム、領野間のマクロレベルの相互作用の理解は、当初の目標を遥かに超えて飛躍的に進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
複雑な反応選択性の形成メカニズムを調べるために、様々な複雑な視覚刺激を用いて、特定の高次視覚野が特異的な反応を示すような視覚刺激を検索したところ、運動残効を引き起こすような刺激を用いた時に、1つの高次視覚野が特異的に反応を示すことが見出された。従って、その領野における反応選択性およびその運動残効の形成メカニズムを調べることにした。 今後、運動残効に対応する反応が観察されている時に、動物が何を知覚しているのかを理解するために、2光子カルシウムイメージングを用いて、数百個の神経細胞の集団の活動を記録し、それらの活動からデコーディングを行うことを試みる。そのため、現在、V1において、数百個の神経細胞の集団の活動からのデコーディングを行っている。運動残効時には、視覚刺激として提示した刺激と逆向きの運動知覚が生じるはずであるが、そのような再構成が得られるかどうかを検証する。 また、反応選択性および運動残効の形成メカニズムを解明するために、この領野(領野Aとする)へ入力する軸索のイメージングを行う。逆行性のトレーサー(CTB555)を領野Aに注入し、領野Aへ入力を送っている低次の視覚領野を同定する。この領野にGCaMP6sを発現するウイルスを感染させ、領野Aでその軸索の2光子カルシウムイメージングを行う。 仮説として、(1)低次の領野の軸索は、より単純な運動刺激に選択的に反応する、(2) 低次の領野の軸索は、刺激が提示されている間は活動するが、運動残効時には活動しない、ことを予想し、それを検証する。さらに領野Aの細胞体および樹状突起のスパインのイメージングを行い、反応選択性およびその運動残効の形成メカニズムを調べる。スパインのイメージングについては確立済み。
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