2013 Fiscal Year Annual Research Report
外来生物駆除後の海洋島の生態系変化:環境不均質性を考慮した管理シナリオの提案
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25241025
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
可知 直毅 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (30124340)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平舘 俊太郎 独立行政法人農業環境技術研究所, 生物多様性研究領域, 上席研究員 (60354099)
川上 和人 独立行政法人森林総合研究所, 野生動物研究領域, 主任研究員 (50353652)
吉田 勝彦 独立行政法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (70332244)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 小笠原諸島 / 物質循環 |
Outline of Annual Research Achievements |
海鳥繁殖地の回復が生態系に影響を及ぼす範囲を明らかにするため、地上営巣性の優占種であるカツオドリの営巣環境選好を明らかにした。その結果、カツオドリは、海岸から200m以内の海に面した斜面又は尾根上に営巣し、内陸側の谷には営巣しないことが明らかになった。また、排泄物は海岸から250m以内にあり、最近接営巣地までの距離は100m以内に限定され、より内陸には効果を及ぼさないものと考えられた。 海鳥の営巣地から距離が異なる地点の土壌を用いて、指標植物であるギョウギシバの栽培実験を実施した。営巣地に近い場所の土壌で栽培したギョウギシバほど収量が大きかった。また、これらの土壌ほど土壌中の有効態リン酸量が大きかった。一方で、土壌有効態リン酸量とギョウギシバの収量との間には関係は見られなかった。以上の結果は、海鳥の営巣による栄養塩の付加は、直接的に植物の収量を増加させるわけではないことを示唆した。 野外調査において採取した土壌サンプルの土壌pH、置換酸度、有効態リン酸、全炭素含量、全窒素含量等を測定した。また、採取した植物サンプルを粉砕し、全窒素含量および全リン含量を測定した。また海鳥の排泄物を固体13C核磁気共鳴スペクトルおよび液体31P核磁気共鳴スペクトルによって分析し、カツオドリとオナガミズナギドリの排泄物の違いを明らかにした。 海洋島内の環境不均質性を表現できるようなメタ生態系モデルを開発した。このモデルでは島を複数の細かい区画に分け、それぞれの区画に標高、傾斜などの データを持たせた。このモデルを用いて外来ヤギを駆除するシミュレーションを行った結果、海鳥が来ない内陸部では、窒素固定を行う外来樹をヤギが摂食する ことによる栄養塩循環が停止するために貧栄養化が進み、そのために植生の回復が遅れることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
離島における野外調査を予定どおり実施することができ、また、サンプリングした土壌の化学分析およびこの土壌を用いた栽培実験も実施することができた。その結果、外来生物(ヤギ、クマネズミ)の駆除が海鳥の営巣や植物の一次生産や土壌栄養元素量に及ぼす影響に関する成果が得られた。また、空間構造を考慮した生態系モデルを開発し、実際の野外データと突き合わせることで、開発したモデルの課題をいくつか発見した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで実施してきた海鳥の営巣に関する調査の一部を継続する一方で、営巣様式が異なる海鳥種に関しても、同様の調査を実施する。また、微地形に沿った土壌流出入量と推定とそれが土壌特性や食性に及ぼす影響を評価する調査を実施する。さらに、土壌流出に伴う土壌の化学特性の変化が植物の成長に及ぼす影響を評価するための予備的な栽培実験の実施する。小笠原諸島・媒島において野外土壌調査を実施し、土壌pH、置換酸度、有効態リン酸、全炭素含量、全窒素含量等の土壌の化学的特性が、深さによってどのように変化するかを明らかにする。また、土壌の化学的特性の場所による違いを明らかにする。レーザー測量によって既に得られているデジタル測量データから、生態系モデル内で想定している物理環境(標高、海岸からの距離等)を作成する。航空写真および現地調査結果から、調査地において優占種となっている外来植物ギンネムの分布データを中心とした植生データのGISデータを整備する。 昨年度までに作成した、空間構造を導入した海洋島生態系の数理モデルを用いて、小笠原諸島を想定した様々な地形の島からヤギ、ネズミなどの外来生物を駆除するコンピュータシミュレーションを行い、地形に起因する環境条件の違いが駆除後の生態系変化パターン(生態系の構成種の変化、栄養塩量の変化)に与える影響を明らかにする。また、植物の生育に影響する土壌pH変動をモデルに組み込むための準備を進める。
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